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ヤギノミ

 彼女はとある旅の楽団に身を置いており、その歌の評判は国中に広がっていた。

 小さな街一つぐらいなら、彼女が来ただけでお祭り騒ぎになるほどだった。

 そんな彼女にも、旅の途中で声が出なくなった時期があった。

 思いつめた少女は死のうと考えた。

 暗い森の泉に身を投じようとしていたとき、一匹の奇妙な獣に出会った。

 その姿を簡単に言えば、二足歩行の山羊である。

 ヤギノミと今では言われる、人語を解する変な奴らだ。

「死ぬのかい?いや、死ぬほどでもないだろう?声が出ないだけで」

「獣如きに何が分かるの!私にとっては歌うことが全て、歌えない私なんて死んだほうがましよ!!」

 魔女のようなガラガラ声で叫ぶ少女は、自虐的な雰囲気もあいまってなかなか様になっている。

「俺は歌えないからなあ。いや、別に他に何か特技があるって訳でもなく。本当に何にもないんだよなあ、俺って。こんな俺でも死んだ方がましなのかなあ?」

 ヤギノミはくりくりとした目で少女に訴える。

「別にあんたと私は関係ないでしょ」

「関係ないんだけど、ただのおせっかい焼きで。いや、目の前で誰かが苦しんでいると放っとけなくって」

「獣に心配されるほど、落ちちゃいないわよ」

「それだけの威勢があれば大丈夫かな。泉で自殺をはかるような可憐な女の子かと思ったら、意外と神経ず太いし・・・」

 わなわなと拳を震わせる少女に気づき、慌ててヤギノミは逃げ出す。

「私は可憐な美しい歌姫よ!!獣如きに私の魅力なんて分からないわ!!」

「はいはい、分かったよ。じゃあ、明日の朝、その自慢の歌声を聴かせてくれよ。みんな連れて聴きに行くから!」

 少女はヤギノミが去った後、狂ったように笑って、楽団の待つテントへと帰っていった。

 楽団員はずぶ濡れの少女の姿に驚き声をかけたが、少女はなんでもないわと突っ返した。

 そして何事も無かったように着替えて、たらふく食事を取り、十分な睡眠を取った。


 次の日の朝、少女は朝早く目覚めていた。

 自分の声が出るのか不思議と不安は無かった。

 どこからか草笛の音が聞こえる。

 素朴な草笛の合唱。

 それに合わせて、少女は歌った。



おせっかい焼きの獣

気をつけて

奴らのつぶらな瞳は罠だから

抱きついたら最後

奴らの毛皮は

夜露で湿っている


おせっかい焼きの獣

気をつけて

奴らの言葉は嘘だから

抱きついたら最後

奴らの毛皮は朝露でも湿っている


不快感と後悔で涙が溢れる



 少女の美しい歌声に楽団員達が次々とテントからでてくる。

 そして、この歌は少女の名とともに、奇妙な獣ヤギノミの名を世間に広く伝えるものとなった。


「じいちゃん、その話、嘘だろ」

「あぁ、嘘じゃよ。だが、即興にしてはよくできていると思わんか?」

「思わない」

「つまんない」

 暗い夜の森に小さな明かりが灯っている。

 森の奥にあるヤギノミ族の集落で、ヤギノミの子供達が老いたヤギノミの家に集まっていた。

「やれ、素直な子じゃ」

「ねえ、おじいちゃん。もっと人間の話が聞きたいなあ」

 子供のヤギノミは老いたヤギノミに次の話をせがむ。

「そうじゃのう、次はなぁ・・・」

 平和な夜の一時、老いたヤギノミの話は延々と続いた。


紗英場 渉先生


山羊ノ宮さんこんにちは!はじめまして紗英場渉と申します。こちらで執筆させていだたいています。

面白い作品でした。二足歩行のヤギ“ヤギノミ”。彼らの瞳から写る人間はどんな生き物なのか? 助けてやる程のものなのか、ヤギノミ達の気まぐれか。

ヤギノミが山羊ノ宮さんのペンネームをもじってつけられたとしたらもう脱帽です。

しかしながら場面が変わるときに空行を多様するのは避けた方がよりよかったかと思いましたので★4つとさせていだたきました。

では、またお会いできたら光栄です。

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