ラビの記憶
夢も希望もいらなかった。
そんなものではおなかは膨れないし、寒さもしのげない。
私が欲しかったのは、一切れのパンと温かい毛布だった。
私がもう少し大きければ、体を売って何とか食いぶちぐらいにはありつけたかもしれない。
親もいないような私と同じような境遇の人間は、そこいらにいくらでも転がっていた。
私たちは、人の同情をかって乞食になるしかないのである。
偽善者が分け与えている食料は、笑顔で受け。
そして、裏では子供たちの殺伐とした奪い合いがある。
そんな中私は彼に出会った。
彼は一人浮いていた。
銀縁の眼鏡をかけていて、しわ一つないスーツを着ている。
ここは戦場なのにもかかわらず。
お金持ちなのだろうか?
私は不用意に彼に近づいた。
「食べ物はない」
彼は冷たく言い放った。
なんてきれいな人だろう。
私は思わず見つめていた。
彼は懐から、銃を取り出し、私に向けた。
彼は警告しているのだ。
私に立ち去れと。
けれど私は彼になら殺されてもいいと思った。
静かに目をつむる。
ものすごい音が鳴った。
頬をかすめただけなのに、ものすごく痛くて転げ回りたかった。
目を開けると、彼は変わらない表情でそこにいた。
「来るか?」
彼は問いかける。
私はコクリとうなずいた。
彼は名前をくれた。
私の名前はラビ。
『ラビ』
『ラビ』
『ラビ』
彼が私の名を呼ぶたび私の心が温かくなった。
私は幸せだよ、イーグル。
栖坂月先生
極点シリーズ(?)をいただきました。
実に厚みのある、読み応えのある物語でした。全体としてはお約束な感もありますが、それでも十分な魅力は備えていると思います。北と南にはほとんど接点はありませんでしたが、それがペンギンというところに奇妙なセンスを感じます。恐らくもっと深いところでは繋がっているのでしょう。
ここまで力の入った作品に、私が取り立てて言うことはないように思います。コミカルな部分もシリアスな部分も、このままどんどん追求していってください。
ちなみに二つ、誤字らしきものを見つけたのですが、どちらもそのまま意味が通る、というより本来の形より相応しいように思ったので、そのままでも良いと思います。
一応挙げておきますと、一つは北極への前半『怪しさ満天のガイド』です。本来は満点でしょうけど、北極の澄み渡った空と相まって、むしろいい感じです。もう一つは南極への中盤『ゴキブリのようなてかてかした高級外車から降りてくるはげずらの男』のはげずらですね。禿面と漢字を当てるなら『づら』なんでしょうが、このはげずらにどうにも味わいがあって、変えるのは惜しいとすら思いました。
まぁ、どちらも厳密な間違いとも言えないように思うので、山羊ノ宮先生のセンスで判断してください。話の邪魔をしているわけでもありませんしね。
ともかく楽しめました。
また来ます。それでは