情報屋KASASAGI
「お前、KASASAGIさんところ行ったこと無いんだって?」
「ああ、無いよ」
「一度もか?」
「一度も無いな」
「じゃあ、連れてってやるよ」
そんな会話を同僚としたのが今朝のことだ。
大きなお世話だと思いながら、同僚の強引な誘いを断りきれず、その夜KASASAGIさんのところへ行くことになった。
「あのさ、基本的なこと聞くけど、KASASAGIさんってどんな人なの?」
「どんな人って言われてもなあ。そもそもKASASAGIさんっていうのはコードネームみたいなもので、実際にはいろいろいるんだよ。メイド喫茶のメイドだったり、執事喫茶の執事だったり」
「なんかすげー、嫌な予感がするんだけど・・・」
「ここだぜ」
そこは一見すると居酒屋の風である。
「邪魔するよ」
同僚は何の気兼ねも無く、その店の暖簾をくぐった。
俺は仕方なく同僚の後を追い、暖簾をくぐった。
「いらっしゃい!」
威勢のいい声が店の中を響いた。
そこには板前風の若い兄ちゃんが、カウンター越しに構えていた。
「おい、あれがKASASAGIさんなのか?ただの板前じゃないのか?」
「まあ、そう見えるだろうな。一応違法行為だから、分からないようにするのは当たり前だろ」
「そうだけどさ」
なんとなく納得がいかない。
「それよりもあれ持ってきたのか?」
「ああ、国民IDだろ。けど、こんなもんどうすんだよ」
「そこの食券機があるだろ。そこに入れんだよ」
「は?」
「まあ、いいからやってみろよ」
普段ならお札を入れるはずのところに、めったに使わない国民IDを入れた。
前に使ったのは、引っ越しして役所に届け出に行った時だから、随分と経つ。
ガガッと音を立てて、食券機は国民IDとレシートのようなものを吐き出した。
そして、食券機の上にある電光掲示板に1と表示された。
「あとはその整理券とデータを交換するだけだ」
同僚は一通りの説明を終え、手慣れた様子で俺と同じことをする。
すると、電光掲示板には2と表示された。
「じゃあ、これ頼むよ」
「毎度ありがとうございます」
「いつもここに来ているのか?」
「ああ、ここは仕事が早いからな」
「いえいえ、私はまだまだ半人前で。お客さまに満足していただけるデータを提供できているか、不安で仕様がないですよ」
「そうか、まだ半人前だったのか。早く一人前になれると良いな」
「はい。精進いたします」
俺たちは板前姿のKASASAGIさんに整理券を渡し、かわりにデータを受け取った。
そして、そのデータを見て俺は驚いた。
「なんか必死に頑張ったつもりでいたけど、全然成果出てないな」
「まあ、そうだろうな。俺のも見てみろよ」
「何これ?全然数字違うじゃん。何で?」
「そこはコツってもんがあんだよ。教えて欲しいか?教えて欲しいだろ?」
「・・・なんだよ。結局お前そのコツ教えたくって、仕様がなかっただけだろ?」
「ばれてしまったか」
「まあ、いいや。それでそのコツってのは?」
「それはだな・・・」
俺たちは店を後にし、その数字を酒の肴にして楽しんだ。
久しぶりにうまい酒だった。
なんたってやりがいが出てきたのだ。
この国が成果主義を悪と決め、徹底的に平等を求めた結果、我々はゆるいノルマが与えられるだけで、自分のした仕事の結果は分かりもしなくなってしまったのだ。
唯一分かるとすれば、KASASAGIさんのところだけだろう。
今夜もKASASAGIさんのところで得たデータを見て、ある人はほそく笑み、ある人は悩んでいることだろう。
紗英場 渉先生
こんばんは。はじめまして紗英場渉と申します。この「小説家になろう」にて執筆させていただいています。
さて、このお話ですが、元ネタがなかなか面白いので、更に印象的にするためにも、もう少し先まで描いて欲しかったですね。(あくまでも僕の個人的な意見です)僕的には「えっ……ここで終わり!?」と言う感じでした。最初は何だかよくわからなくて、物語の社会背景がわかったところで成る程!となったのは良いのですが、この作品が伝えたいことがいまいち伝わって来ない感じがいたしました。
凄くいい題材なのにもったいない!と言うことで、期待感を込めて物語、文章★3つとさせていただきました。(もちろん、自分のことは棚上げです!)
ではまたお会いできたら光栄です。お互い頑張りましょう!