魔女ジルルキンハイドラへの復讐
深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。
魔女の名は、ジルルキンハイドラ。
その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。
そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。
俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。
ペットの名はトットルッチェ。
人語を解する稀有な黒いライオンである。
ある日のことである。
金色のウサギ、メルフォキアとジルルキンハイドラの妹、ティナエルジカが彼女のもとに来ていた。
この日、皆は一緒に食卓を囲んでいた。
「ふっふっふ、この野菜スープに唐辛子をたっぷり入れて、ジル姉のと取りかえれば、哀れジル姉は大変なことに・・・」
ティナの高笑いが、食卓に響いた。
「後は、これをジル姉のと取りかえるだけね♪さあ、ジル姉覚悟しなさい!」
「いただきま〜す」
「いただきまーす」
「あ、あれ?」
ティナが高笑いしているうちに、食事は始まってしまった。
「どうしたの?ティナ。食べないのー?」
「い、いや。食べるわよ。トットルッチェ。でも・・・ねえ、ジル姉。替えっこしない?」
「嫌だよ〜。そんな赤いの。私辛いの嫌いだもん」
固まってしまうティナ。
その様子を見て、メルフォキアが動く。
「もしや、ティナエルジカ様も野菜嫌いでしたか?ウルリカロナエルザ様のところにいらっしゃった時には、そのようにお見受けできませんでしたが」
「そ、そんなこと無いわ。ウルばあちゃんのところにいた時もちゃんと食べていたでしょ、メルフォキア。食べる。食べるわよ」
メルフォキアのくりくりした目で見つめられながら、ティナは意を決して、スープを一口・・・
「か、辛い!!痛い!う、み、水」
「ミミズー?」
「ちがーう!トットルッチェ、水!!」
ティナは水を一気飲みすると、ようやく一息ついた。
そして、ジルを指差し、宣言する。
「絶対許さないんだから!ジル姉、首を洗って待ってなさい!!」
そう言うと、ティナは飛び出していった。
「ねえ、トットルッチェ。私何かしたかな〜?」
「さあ、いつものことだし、いいんじゃない」
「そっか」
「でも、ジル。野菜普通に食べれるようになったんだね。知らなかったよ」
「エッヘン。私だって本気出せばこんなもんよ」
「・・・って、待って。ジルのだけ、僕らと中身違うじゃん。ずるーい」
「ず、ずるくないもん。たまたま昨日の残りがあって、そのまま置いてたら腐っちゃうし、やっぱり食べ物は大切にしなきゃだし・・・」
「もういいよ」
「ホントだって〜」
森の中をさまよい、ティナはジルにどうやって復讐するか考えていた。
「もう、絶対許さないんだから。許してって言っても許してやらないんだから。でも、一体どうして、仕返ししようか・・・」
「私に妙案があります」
目の前に一匹のウサギが飛び出してくる。
「メ、メルフォキア?!」
「本来私が手をお貸しするべきではないかもしれません。ですが、私の丹精込めて作った人参畑が、何やら違う野菜が植えられて、見るも無残な様になってしまっている。許せません。ここはジルルキンハイドラ様に少々痛い目にあって、反省していただかなくてはいけません」
「そ、そうなの。でも、具体的にどうやって?」
「では、こちらへ」
ティナは、メルフォキアの後についてやってくると、そこはジルの家の前だった。
「先程、ジルルキンハイドラ様の家の前に、落とし穴を掘りました。ジルルキンハイドラ様が出てきたら最後、落ちたそこには人参の山が!!それから数日放っておけば、野菜嫌いも治って、一石二鳥」
「お、恐ろしい・・・でも、なんだか既視感が。気のせいかしら?」
「では、ジルルキンハイドラ様を呼んで、落とし穴に誘い込んでください」
「ええ、分かったわ。任せなさい♪」
それから自信満々にティナはジルの家に向かった。
そして、落とし穴に落ちた。
「いやああああぁぁぁぁ!!」
その絶叫に誘われて、ジルとトットルッチェが家から飛び出してくる。
「何、何?どうしたのー」
「何、またやったの、ティナ」
「今です!!」
メルフォキアが叫ぶと、穴は広がり、ジルとトットルッチェも落とし穴の中へと吸い込まれてしまった。
「はわわわわわわ」
メルフォキアは懐から人参を取り出すと、ガリリとかじった。
「人参の敵は、世界の敵です」
そして、メルフォキアは遠くの空を眺めていた。
一方、落とし穴の中では、ティナの泣き声が響いていた。
「ジル姉のせいで、これからずっと人参生活だ。何でこうなるのよ」
「私何にもしてないよ〜」
「あれ、何やら、ジル。余裕だね。こんな状況下じゃ、泣きだしてもおかしくないのに」
「ふっふっふ、トットルッチェ、私を誰だと思ってるの。深緑の魔女ジルルキンハイドラ様よ。こんなこともあろうかと・・・」
ジルが、落とし穴の壁を叩くと、人一人通れる横穴が現れた。
「すごいねー」
「エッヘン」
「ジル姉ー、ごめん、ごめんね。今までしてきたこと全部水に流すから、全部許すから。だから、私のことも許してー」
ジルに泣きつくティナ。
その頭をなでながらジルたちは横穴を抜け、無事脱出したのだった。
「ジル、ここは?」
「私の秘蔵書物保管場所、ホントは地下じゃなくって、もっとしっかりとしたところがいいんだけど、湿気対策はしっかりしてるし、なかなかいいでしょ」
「そうだねー」
「トットルッチェ、全然興味ないでしょ」
「無いねー」
「す、すごい。この本なんか・・・あっ・・・」
「ティナ・・・なんか今、嫌な声が聞こえたんだけど?」
「いや、うっかり手が滑って、わざとじゃないんだよ、ジル姉。ね、許して♪」
「許すわけ無いじゃない!!!五体満足で帰れると思うな!ぐちゃぐちゃの目茶苦茶にしてやる」
「こ、怖いよ。ジル姉。許してー」
その後、ティナは命からがら逃げ出し、ジルへの復讐の決意を新たにするのだった。
栖坂月先生
どうしてティナは魔女をやれているんだろう。
つくづくそんなことを思ってしまいました。
それとも、姉が絡まないところでは凄く優秀な人なんでしょうか。
いや、そんな筈ありません。
あるいは、姉に対する執念だけで魔女をやっているんでしょうか。
これはあるかもしれませんが、あまりに間抜けです。
ティナ、ある意味恐ろしい子ですね(笑)