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S→F  (残)

『WARNING』

警告。

けたたましい警告音が研究所内に鳴り響き、所内は騒然としていた。

「どうやらナノマシーンが漏れ出ているそうだ」

「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫なわけあるかよ、さっさと直しに行かないと」

「そ、そうよね」

そのナノマシーンは初め、軍用に開発されたものだった。

部隊の統制をとるための通信機器としての開発。

しかし、結局活躍の場は与えられず、民間の通信機器への転用を目指し、この研究所で開発が進められていたのだった。

「とりあえず俺たちは、ナノマシーンの製造の現場に。サラとアンディは管制室を頼む」

「オーケー」

「分かったわ」

研究所の職員はそれぞれ役割を決め、その対処に奔走した。


 

「気をつけろよ、サラ」

「分かってる」

二人は管制室の扉のロックを外すと、中に乗り込んだ。

銃を構え、アンディは警戒するが、すぐに下ろしてしまう。

サラは思わず、口を押さえ、目をそらしてしまった。

管制室では惨状が広がっていた。

死屍累々、そんな言葉が相応しかった。

「こいつか」

アンディは、メインの管制パネルの前の椅子に座っている男を見た。

男の手には拳銃が握られていた。

その頭には銃痕がある。

その男はアンディのかつての同僚であった。

先日のリストラを理由に、このような暴挙に出たのだろうか。

アンディは、やりきれない気持ちを押さえ、コントロールパネルを叩く。

事態は一刻を争う。

「サラ、手伝ってくれ」

返事がない。

「サラ!」

「えっ?」

茫然自失となっているサラに、アンディはしっかりしろと声をかける。

「大丈夫よ、大丈夫」

気丈にふるまう彼女だが、その動揺は明らかだった。

もちろんアンディも動揺していたが、彼女のおかげで、自分がしっかりせねばという気にはなれた。

「設定が生産速度も、性能もマックスになってやがる。急がないと大変なことになる」

「そうね、でもこのプロテクト厄介だわ。これなら・・・駄目か、エラーが出る」

サラはコントロールパネルをいじくりだしてから、ようやくその持ち前の集中力で、冷静に戻る。

「違うのね、これじゃない・・・だったら、このパスコードを入力すれば・・・もう!ダミーだなんて!」

「ああ!もうやってられん!こんなもんは壊せば何とかなんだよ!」

アンディは何を思ったのか、手近な椅子を持ち上げた。

「何するの!そんなことしたら、責任問題よ!やめなさいって、そんなことでうまくいく訳無いじゃない!」

「何とかなるなる」

アンディは、激昂するサラにウインクをして、

ガシャン。

椅子は、コントロールパネルではなく、その場に落とされた。

「何?」

二人は同時に口にした。

違和感を覚えた。

自身の声とは違う声が、頭に響いたのだ。

二人は見つめあう。

そして、その瞳に映るものに驚愕した。

片目で相手を見、もう一つの目で自分自身を見ていたのだ。

(ナノマシーン)

それはどちらかの思考だった。

だがしかし、それは両者の共有するものとなっていた。

五感はもとより、感情や思考までもがリンクしていた。

「いやあああぁぁぁぁ!!」

サラが叫んで、アンディを突き飛ばす。

そして、サラはへたり込んで、目を塞ぎ、耳を塞ぐが、アンディの目や耳を通して、自分自身を見ていた。

アンディが背中を打ったのであろう、サラの背中にも鈍痛が走った。

「私の中に入ってこないで!」

サラは自分の中に入ってくる異物に対しての嫌悪感でいっぱいだった。

少なくともその感情は、彼女から端を発したのだが、アンディの心にもその感情は浮かんでいた。

アンディは、その感情を自分のものではないと言い聞かせ、抑え込もうとするのだが、どんどんと膨らむ感情に、飲まれていった。

「お前こそ俺の中に入ってくるな!」

アンディはサラに銃を向けた。

サラは目をつむり、うずくまっているが、自分に対してどんなことが起こっているのかよく分かっていた。

「いやあ!やめて!撃たないで!お願い!」

アンディは銃を向けながらも、銃を向けられる恐怖の中、引き金を引いた。

発砲音がした。

気を失いそうな痛みに耐えながら、アンディはようやく安堵した。

やっと両目で世界が見える。

肩で息をしながら、アンディは立ち上がる。

(早く何とかしないと)

自分のしたことに、いらつきながらもコントロールパネルに向かう。

『なんて事を』

アンディは、はっとする。

頭の中に声が響いた。

『かわいそう』

『何も殺すこと無いじゃないか』

『人殺し』

頭の中を駆け巡る非難の声。

そして、アンディに対する嫌悪感がアンディの中を支配した。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

アンディは吠え、銃を口の中に突っ込む。

そして、引き金を引いた。


 

その惨劇は一幕でしかない。

世界中で同じようなことが起きていた。

精神をきたし、自殺、他殺、そうならないまでも、もう人は人と呼べる代物ではなくなっていた。

世界を支配していた人の歴史は、こうしてあっけなく閉じてしまった。

そして、それは人だけに限ったことではない。

ありとあらゆる生物が、混乱をきたしていた。

しかし、多様性とはこの時のためにあったものなのかもしれない。

脳に注がれる大量の情報を処理し、他のものを支配下におけるものが現れる。

一なる全、全なる一。

神の誕生である。

かくして、人の時代は終わり、神話の時代が始まった。

栖坂月先生


先生にしては極端な作品であるような印象を受けますね。

でも、その経緯は面白かったです。もう少し長い作品になれば、きっとナノマシンの詳細や、あるいは彼らの意思までも表現されていたのかなと感じます。

一見すると事故に端を発する偶発的な出来事に見えますが、あるいはナノマシンにとって都合の良い神をつくるためのプロセスだったのかも、といったような想像をしてしまいました。

神に支配される神話の時代、むしろ平和な世の中かもしれませんね。

それでは


午雲先生


山羊の宮先生、作品、読ませてもらいました。相互・不信、集団・発狂というキーワードが思い浮かんで来ます。一行、一行に黙示的なメッセージを含めてありそうな予感がします。

この謎のナノ・マシーン、遠隔・相互・感応と名乗る能力を有すると考えてやるべきでしょうか?脳波から五感までもれなく同時・共有してしまう・・まさに一大パニックですね!

このパニックに耐えうる者、それは、ミミズのような単性・生殖・生物かも知れません。両性・具有、もしくは単性なる生物なら、相互不信とも無縁でしょうから。

なかなか刺激的な内容とお見受けしました。精神・感応の能力は、こと、社会の維持という方面にとっては、両刃の剣ですね、確かに、ー。個人の管理も行き過ぎると、息づまる思いが来たすばかり、ー少し、ゆるみというか遊びをもたせてほしい感じがします。北風と太陽ですね(苦笑)。感想、以上です。

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