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その銃弾は届きはしない

「何を見てやがる!」

与田はいらいらとしていた。

短くなったタバコをくわえながら、うろうろとしていた。

「どうせお前らにしたら、俺たちなんて紙くずも同然なんだろ。そんな奴がわめいたところで、なんも感じないんだろうさ。お前たちは!」

部屋の中は、フラスコやらビーカーが並び、机一面に何やら計算されたものが散乱している。

与田は頭をかきむしり、気が狂ったように独白する。

そう、彼は気がふれているのだ。

「人が苦しんでるのを見てるのが楽しいのか?人が不幸になるのが楽しいのか?それとも人の幸福になる様を見て、自分の不幸を慰めているのか?人がやってるのを見て欲情してるのか?そんなに覗くのが楽しいのか?いい趣味だよなあ?ハッハッハッハッ!」

今度は腹を抱えて笑いだす。

笑い声は自嘲を含み、やがて嗚咽に変わる。

与田の目からは涙が流れていた。

「どうせ俺たちは人形なんだよ。何の意味もない。生まれてきた意味なんてないんだ。ただお前たちの暇をつぶすためだけに生まれた存在なんだよ」

与田は膝をつき、天を仰ぐ。

彼の眼鏡は曇り、その意味をなさない。

「悲しいかな俺は天才なんだ。他の奴らと同じように、のうのうと生きれやしない。知っちまったからな」

与田は力なく立ち上がると、机の中をあさった。

取りだしたのは、おもちゃのような銃だった。

「何やっても無駄なあがきなんだよ。でも、あがきたくなるもんなんだよ。人は。お前に分かるかい?人ってもんがどんな生きもんか」

与田は銃のマガジンに、変な弾を込めた。

弾の形はいびつで、そんなものが飛ぶように思えない。

与田は静かに銃を構えた。

曇った眼鏡の先に彼が何を見ているのか分からなかった。

その構えている先に何があるのかも。

「当たるわけねえと思っているだろ?どうせ俺たちは紙くずと同じだからな。ただの文字の羅列なんだ。そこにいるってことさえお前たちには分からねえんだ。でも、知っちまったからな。撃たずにはいられねえ。俺は人だから」

与田は引き金を引いた。

破裂音がした。

銃弾は届きはしない。

与田は眼鏡をとり、肩で息をしていた。

そして、私たちを睨んでいた。

栖坂月先生


面白いかどうかは別にして、興味深い作品でしたね。

漫画とか映画とか演劇とか、何かしら視覚的にダイレクトな媒体であるなら、こういう見ている側を巻き込むという作品に違和感がないものなんでしょうが、小説の登場人物に気付かれたの初めてのような気がします。まぁ、有名な作家の一人くらいは、やっていそうな気もしますが。

私の中では文字が紙から剥がれ、合体して人型を成していました。

ある意味ホラーですね(笑)

いずれにせよ、天才の表現方法としては面白いアプローチだと思います。大変参考になりました。

また来ます。それでは

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