一途な思いと、秋の空
『ねえ、ねえ、愛美ちゃん好きな人いるでしょ?』
麗子がそう行った時、私はぞっとした。
ついに、ばれたかと。
『ねえ、誰なの?教えてよ〜』
どうやら、ばれていなかったようだ。
私は、ほっと息を吐いて答える。
『そんな人いないわよ』
『ええ〜、嘘〜。だって愛美ちゃん、恋する乙女の目してるよ』
『どんな目だ?それは。だいたい私は麗子と違って、乙女モードには縁がないの』
事実そうであれば、私の心はどんなに楽か。
『そんなのさみしいよ。絶対恋愛したほうがいいよ。好きって気持ちすごく大事だよ』
『それはうまくいっている人の言葉でしょ』
私は思わず、口を滑らせた。
しまったと思いながら、麗子を見ると、彼女の瞳はキラキラと輝いていた。
『やっぱり恋してるんじゃん。しかも叶わぬ恋って奴?誰誰相手って?もしかして不倫?』
野次馬根性丸出しである。
その気持ちは分からないでもないが、友人に対する態度としてはどうかと思う。
しつこく聞いてくる麗子に対し、イライラを覚えながらも、もうどうにでもなれと告白してしまう。
『雅臣。あんたの恋人の雅臣よ』
眉間にしわを寄せながら、麗子を見ると、麗子は固まっていた。
『・・・マジ?』
『マジ』
それから私たちは言葉少なに、相談した。
私はずっと眉間にしわが寄ったままで、麗子は薄い中途半端な笑顔を張りつけたままであった。
それから何でこの結論に至ったのか、よく分からないのだが、
「麗子から事情は、聞いてるわよね?分かってると思うけど、別にあんたと麗子の間をどうこうしようって気はないから。私のけじめだから」
「ああ」
雅臣は私の前にいる。
彼女に言われたからって、ノコノコ来んじゃねえと思いながらも、来てくれて嬉しい自分も半分いることが、悲しかった。
「じゃあ、言うから」
「ああ」
私は深呼吸を三回して、雅臣を睨めつけた。
「・・・私はあんたのことが好きだ」
雅臣の表情は、私の言葉には一切動じず、ただ私のことをじっと見てくれていた。
期待なんてしていない、でも。
「知ってる。いや、知ってた。でも俺、麗子のことが大切だから・・・」
「ごめん。それ以上は・・・お願い・・・」
私は彼の言葉をさえぎり、泣き崩れていた。
彼はその姿を見ていた。
慰めてもくれない。
冷たい男だと思った。
でも、好きだった。
「こういう時は、抱きしめてくれるもんじゃないのか?」
涙声で、精一杯の強がり。
「でも、麗子そこにいるからなあ。後で変な誤解されても困る。というか絶対するしな・・・」
彼を見上げると、困った表情をしていた。
彼の差す方向を見ると、隠れているつもりの麗子がいた。
頭隠して尻隠さずとは、よくいったもので、彼女の姿を見れば一発でばれるだろう。
しかし、そんな彼女にも気付かないほど、私はテンパっていたのだと思うと、苦笑してしまう。
「じゃあ。何?麗子がいなきゃ、抱きしめてくれてたって訳?」
意地悪な私の質問に、雅臣は悩んでしまう。
「何迷ってんのよ。そこは迷わず、否定するところでしょ」
「いや、どう断ったら黒木を傷つけずに済むかなっと・・・」
「その言葉が一番傷つくっての!」
私は雅臣の腹に、空手初段の正拳突きを喰らわすと、崩れ落ちた雅臣をおいて、麗子のもとに向かう。
「麗子!」
あわてふためく麗子。
だが、やがて観念したのか、ばつの悪そうに出てきた。
私は彼女に感謝していた。
素直になれてよかった。
だって、今。
泣きながら、笑っていられるから。
午雲先生
泥沼の三角・関係・・・心ここにあらず、絶えず彼女(麗子)に気をつかってる、雅臣くんが哀れです。幻想・粉砕を期した正拳突きっ!?愛美の幻滅した気持ちがよく現われて居ると見えました(汗)。話してみたら、秋の空ってヤツですかね(微笑)。しかし、雅臣くん、かわいそ過ぎるーー!?感想でした。
八町先生
僕と作者とでは、年が違うのか、それに併せて性別も違うのか分かりませんが、相手に対する思いやりの面で、違和感を覚えました。もっともこれが今の若い人の恋愛感であれば、それはそれで仕方ないと思いますが。