祝福 (R15)(残)
「おめでとう」
普段無口で、無愛想な糸井先生が笑っていた。
みんなが僕を囲んで、拍手をしていた。
看護婦の白井さんなんて泣いてしまっている。
「君のおかげでたくさんの人が助かる。今までたくさんの試験をよく耐えてくれた。実際つらかったろう?」
糸井先生は僕を覗き込み、肩を抱いた。
「いえ、つらくはありませんでした。僕にできることは限られているので。先生たちに比べれば、全然平気です」
僕の言葉を聞いて、白井さんはまた声を上げて泣き出してしまった。
あまりに泣くものだから、同僚の村田さんに抱きかかえられて、出て行ってしまった。
「まったく白井は情にもろくていかん。職業柄、出会いもあれば、別れもある。当たり前のことだろうに。せめて別れの時ぐらいは、笑って送ろうという気にはなれんものかね」
「でも、白井さんは優しくって僕は好きでした」
「そうか。まあ、個性というものも認めねばいかんのか。私は頑固者だからな。つい文句が出てしまう。気をつけねばいかんな」
糸井先生はうーんと唸って、難しい顔になってしまった。
「それに僕、糸井先生も好きです」
糸井先生は驚いた顔をして、僕を見た。
「そうか?私はてっきり嫌われていると思っていたが」
「そんなことないです。僕はここにいるみんなのこと好きですよ」
「そうか」
糸井先生はにっこり笑って、懐から銃を取り出した。
そして、僕に差し出す。
「どう使うか、知ってるね?」
「はい。僕はこの時のために生まれましたから」
僕は笑顔のまま、こめかみに銃を当てた。
そして、引き金を引く。
僕の脳みそが、部屋中に飛び散った。
僕が倒れると、糸井先生はいつもの無愛想の糸井先生に戻ってしまった。
糸井先生はリストを取り出すと、読み上げるのだった。
「肝臓の方はA棟の四○二号室の患者に。心臓は、C棟の一○三号室の患者に。ああ、それと腎臓については、加藤先生がすぐにでも手術の方にかかりたいと言っていたので、急ぐかどうか確認をとってくれ。加藤先生次第では摘出後すぐに手術を行うかも知れんからな。それとだな・・・」
それから僕の体は、いろいろな部位に切り分けられた。
そして、みんなのもとに行くんだ。
ねえ?僕は役に立ったよね?
午雲先生
うーん、やがてはこうなるかも・・・知れませんね?一種、洗脳?催眠術?某国では人さらいや人身売買も横行し始めて居ると聞きます(金銭になるから)。だれを殺し、だれを生かすか、それを金銭が決める、というのも、皮肉なことというか、非常に恐ろしい気持ちがします。医療、製薬も今や基幹産業にして、壱大産業・・・移植用クローン人間とか・・・うう怖っ!感想でした。
河 美子先生
ホラーと思って、読んでいくと私のほうがよほど残酷な作品と思い、反省しました。でも、これから臓器移植が簡単に行われると、ここまでいくとは信じたくないけど、意外とあるかもしれないとぞっとしました。