机の中の手紙
私は自分が嫌いだった。
鏡を見てもただ記号のように取り付けられたパーツが、まるで機械のようだと思った。
長めの黒髪は、ずっしりと重い。
切ればいいのだが、母親からせっかくなのだから伸ばしなさいと言われ、そのままにしている。
何かしゃべろうとするとどもる。
いや、まず誰かと話しする機会というもの自体なかった。
親は共働きで、友達もいなかった。
一日中ずっとしゃべらない日だってざらではなかった。
私のいる空間だけぽっかりと穴のあいたような感覚によくなる。
そもそもこんな自分になってしまっているのは、親や先生、学校の同級生のせいなどではないとよく知っていた。
原因は外的要因ではなく、内的要因である。
人と接することがひどく億劫な時期があった。
その時期は一時的なものであったが、他人と隔離して自分の殻に閉じこもることにひどく安心感を覚えた。
その安心感は、まるで麻薬のように私の体に染み込み、孤独である自分に陶酔していた。
しかし、その一方でそれではいけないという自分がいる。
そんな非社会的な人間はこの世にはいらない。
自分ひとりで生きているなどと、そんな考えは傲慢以外の何物でもない。
そんな呪いのような言葉をかけてく自分を私は嫌いだった。
要するに私は私のことが嫌いなのだ。
ある日のことである。
机の中に何かが入っていた。
かわいらしいキャラクターの描かれた便せんである。
私は一応女性であるが、こういった一般女性が喜びそうなキャラクターに疎かった。
目と鼻の位置が近いことによって、赤ちゃんをほうふつさせるため、このようなキャラクターをかわいいと感じるそうだが、私はそうは感じなかった。
もしかしたら、私は人ではないのかもしれない。
もしそうならいいのにと思いながら、封を開けた。
そして、私はその内容に絶句した。
恋文である。
しかも放課後に体育館裏に来いとは、どこの気違いであろうか。
宛名を見てまた絶句する。
彼は非常に活発な性格で、簡単に言うと私と真逆の人間であった。
友人は多いし、よくしゃべり、うるさいほどである。
顔もモデルのようとはいかないが、まあ見れたほうである。
ただ欠点は背が低いことである。
ちびは嫌いだ。
人は自分にないものを恋人や配偶者に求めるというが、こうも違うとその一般論に疑問符をつけざるを得ない。
興味の全くない人間に好きだなんて言われるなんて、罰ゲーム以外何でもない。
罰ゲーム・・・
そうかと、私は心の中で柏手を打った。
これは罰ゲームなのだ。
じゃんけんで負けた者があいつに告白するとかいうゲームである。
たいていこういう時に選ばれる相手とは、クラスにおいて嫌われ者であると相場が決まっている。
今までいじめられてきたことがなかった私は、ついにこの時が来たのかと神妙な心持だった。
これから降りかかるであろう災難に対して、私は決して屈することなく立ち向かうと誰になく宣誓したい気持だった。
そんじょそこらのいじめられっ子とは、違うのだと、全身の血肉が沸き立っていた。
「おはよー」
澄ました顔でちびが教室に入ってきた。
ちびがこちらをちらりと見た。
私はキッとちびを睨めつけてやった。
首を洗って待っているがいい。
そうして放課後がやってきた。
案の定ちびは一人ではない。
ちびの友人が二人後ろで、がんばれーやら男だろーと野次っている。
「手紙見てくれたかな?」
私は見たと、どもりながら答えた。
「突然で驚いたと思う。でも前から君が好きだったんだ。もしよければ付き合ってほしい」
ちびはもじもじとしながら、そう告白してきた。
これも演技だとすると、お粗末な芝居である。
男ならばもっと堂々と告白するものだろうと、心の中で笑い飛ばしていた。
そして、どもりながらいいよと答えた。
ちびは目を見開き驚いていた。
それもそうだろう、罰ゲームで告白してわけもわからない人間と付き合わなければならないとなると、その気の動転の仕様は尋常ではないだろう。
「本当に?」
私は心の中で高笑いを浴びせながら、意地悪そうにどもりながらもう一度いいよと答えた。
ちびは友人たちのもとに走り出した。
不測の事態に作戦会議だろうか?
しかし、作戦会議は行われず、ちびたちはなんだか喜んでいる。
ちびがまた私のほうに駆けよってくる。
「じゃ、じゃあ、今度の日曜日、空いてるかな?」
息を切らせて、早口でちびが質問する。
私はなんだか違和感を感じた。
もしかしたら私はとてつもない勘違いをしているのではないか?
「だめかな?」
私はどもりながら、だめじゃないと答えてしまった。
喜々とするちびをしり目に、私は全身から血の気が引いていくのを感じた。
桜羽先生
すごく、私が
好きな内容でした。
読んでいて
とても楽しかったです。
続きがあれば
絶対に買いたいです!!
すごく続きが
気になっちゃいます...
紙本先生
主人公の気持ちが伝わりました。引っ込み思案だけれど、そんな自分を客観的に見ている彼女の冷静さの裏側には、寂しさを感じました。この
作品の長編があったら、買うかもしれません!!