魔女ジルルキンハイドラへのお願い
深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。
魔女の名は、ジルルキンハイドラ。
その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。
そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。
俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。
ペットの名はトットルッチェ。
人語を解する稀有な黒いライオンである。
ある日のことである。
一人の男の子が、彼女のもとへ訪れた。
「すみません。ジルルキンハイドラ様はいらっしゃいますか?」
「ふぁ〜〜〜い」
ジルは両手にナイフとフォークを持ってやってきた。
そして、男の子を見るとその両方を床に落としてしまった。
「どうしたの、ジル。お客さん?」
少し様子がおかしいジルを見て、トットルッチェは奥から姿を現す。
「どうしよう〜、トットルッチェ・・・この子、可愛い・・・」
トットルッチェが男の子を見てやると、男の子はビクッとした。
「ジルの好みって、こんな子なの?」
ジルは、トットルッチェに向かって神妙にうなずいた。
「ふーん」
「僕、アトレイアっていいます。僕のお父さんが病気で。でも、お医者さんには治せないって言われて。だから、お薬欲しくって・・・」
アトレイアは、あくびするトットルッチェにおびえながら、ジルに説明する。
「要するにお父さんの病気を治す薬が欲しいのね?」
「はい!」
アトレイアは、話が通じたのが嬉しくて、満面の笑顔である。
ジルはその笑顔を見て、にへらと笑みがこぼれてしまう。
「でもタダってわけには・・・」
「・・・僕、お金あんまり持ってないです・・・」
しゅんとするアトレイアをウルウルとジルは見つめている。
「じゃ、じゃあ、体で払うってのは駄目ですか?」
上目づかいにジルを見つめるアトレイア。
ジルは鼻血の花を咲かせて、その場に倒れた。
「ジ、ジルルキンハイドラ様?!」
「ああ、大丈夫、大丈夫。ジルってば、男日照りの、耳年増だから想像力がたくましくって。あとで薬持っていくから、外で待っててよ」
「は、はい」
アトレイアはジルを心配そうに見つめながら、外へ出ていく。
「それでジル、薬は何処?」
「そこの棚の・・・上の段・・・右から三番目・・・」
ジルはひくひくしながら、震える手で指差した。
トットルッチェは薬と取ると、アトレイアに渡した。
アトレイアはトットルッチェにお礼を言うと、家へと急いで帰って行った。
「ジル、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫・・・にへら」
「ジル、楽しそうなところ悪いんだけど。多分ジルの思っているような展開はないと思うよー」
「何でよ〜。何でそんな不吉なこと言うの?」
「野生の勘、かな?」
「そんなの信じないんだから〜。私にだって百年に一度のラブロマンスだって・・・にへら」
「だめだこりゃ」
数日後、アトレイアはまたジルのもとを訪れた。
「ありがとうございます。ジルルキンハイドラ様。お父さん、元気になったよ!」
アトレイアはジルの両手をつかんで、ブンブンと握手していた。
ジルの顔は緩みっぱなしである。
「これこれ、アトレイア。ジルルキンハイドラ様に失礼だろ」
アトレイアの後ろから大柄の男が現れた。
「お久しぶりでございます。ジルルキンハイドラ様。このたびは大変お世話になりました」
大柄の男は深々と頭を下げた。
「ええっと、どこかでお会いしましたっけ?」
ジルは見おぼえない男に、首を傾げた。
男はにっこりと笑った。
「覚えておいででしょうか?私、オルソンと申します。私が子供の頃でございます。よくこの森に友人たちとともに遊びに来ておりました。その折、ジルルキンハイドラ様ともご一緒に遊ばさせていただきました。後でそのことが大人たちにばれてこっぴどく怒られたものです。無知ゆえの無礼、その節は失礼いたしました」
「ああ・・・そんなことも・・・」
「それでこの度のお礼、私たちでできることでよければ何でもいたしますが・・・」
「おとうさーん!ここに畑あるよ!」
「ああ、そういえばメルフォキアが勝手に家の隣に人参畑作ってたねー。もうほったらかしだけど」
「それでしたら、私たちで手入れいたしましょう」
「でも、人参食べないしなー」
「では、ほかの作物を育てましょうか?」
「うん、そうだね。果物とか、甘いものならジルも食べるし。ね、ジル?」
「・・・あ?・・・そだね」
アトレイア親子は、畑の手入れを始めた。
彼らは作業が一段落つくと、また来ますと言って、家へ帰って行った。
「ジル、元気ない?」
「うん・・・なんか、オルソンたちと遊んだのって、つい最近なのになって思って。私だけ取り残されてるなあって」
「さみしいの?」
「うん。ちょっとだけ・・・でも今はトットルッチェがいるから、大丈夫」
「でも、いずれは僕も死んじゃうよ」
「うん」
「できるだけ、そばにいるから。ごめんね」
「うん」
その後もトットルッチェの命尽きるまで、ジルルキンハイドラの傍らにその姿はあった。
神村律子先生
むう?
高千穂某先生の「DPの云々」と同じで、シリーズものなのですね。
ジルちゃん、いいキャラっす(笑)