幸福なひととき
私は歯を磨きながら、雑誌を見ていた。
雑誌を見ながらも、携帯電話が気になって仕方がなかった。
彼にメールを送ったのが一時間前。
それから携帯は微動だにしない。
たぶんまだ仕事をしているのだろう。
最近残業が多くて大変だと昨日のメールにも書いてあった。
きっとそうなのだろう。
私は口をゆすいで、雑誌を机の上に放り投げた。
そして、携帯を手にするとベッドに飛び込んだ。
ベッドのスプリングが、私を弾ませる。
私は仰向けに寝転がると、携帯に文字を打ち込んだ。
『今どこにいるの?』
液晶を眺めながら、思う。
私は嫌な女じゃないか?
彼を信じていない。
彼を束縛したがっている。
うざいって思われるかも。
私はクエスチョンマークの後ろにハートマークを付けてみたり、
今どこにいるの?の前に、お仕事ご苦労様と一文添えてみたり、
絵文字を使ってみたり、
いろいろして、私のどす黒い部分を隠そうとするのだけれど、
全然意味はなかった。
彼が好きなだけなのに、何でこんな思いをしなきゃいけないんだろ。
私の涙が落ちそうになった時、音楽が流れた。
私の好きな歌だ。
私の好きな彼のメールの着うたである。
私は急いで起き上がり、正座をしてメールを見た。
『ごめん。今忙しくって。後でメールする。愛してる』
たったそれだけのメールだった。
私は気が抜けて、ベッドに突っ伏した。
口元が緩んでいた。
「愛してるって・・・」
私は恥ずかしさに身悶えながら、転げ回り、ふとんを頭からかぶった。
何で明日は仕事なんだろう?
明日が休みだったら今すぐにでも彼のもとに行くのに。
こられても迷惑かもだけど、でも一緒にいたいなあ。
私は彼にメールを返して、眠りについた。
彼の愛と、ふとんのぬくもりに包まれて