影は、食べる、幽霊を。 (R15)(残)
ぽたり、ぽたりと落ちてきた。
天井に女が張り付いていた。
俺は昼寝を邪魔され、不機嫌だった。
俺は影を伸ばすと、彼女を四方から追いつめた。
彼女はまだ俺を見つめたまま、よだれなのか血だか分からないものを垂らしている。
彼女はまだ自分を捕食者だと思っているらしい。
落ちてくる彼女を影ですくい取り、影は口を開き、食べた。
血しぶきが部屋中に飛び、また部屋が汚れた。
そして、俺は血だまりの中で昼寝を再開した。
ピンポーン、ピンポーン。
今度はチャイムが俺の昼寝を邪魔をした。
「おはよー。げんきー」
俺が玄関を開けると、遠藤まどかが現れた。
「ねむい」
俺は糸目をさらに細くした。
「いっつもそうだよね。もしかして昼夜逆転してるじゃない?」
「そうかもしらん」
まどかは玄関に荷物を置くと、勝手知ったる俺の部屋へと向かった。
「ねえ?」
まどかは部屋を見るなり、大きな声を上げた。
「またやったの?」
「うん。さっき来てたから食った」
「また部屋掃除しなきゃいけないじゃん」
「いいよ。別に。どうせ普通の人間には見えないんだから」
「でも、私には見えるの!」
憤慨する彼女に、俺はあくびで返した。
「じゃあ、どうせならもう少し汚してからきれいにしよう」
俺はまどかを血だまりの中にくみ倒し、唇を奪った。
胸元のボタンにかけた手を、まどかが押さえる。
「ねえ、やっぱりあの話無理かな?」
まどかはうるんだ目で俺を見つめる。
俺はまるで餌を待つ犬のように動けないでいた。
「生きた人間は何で食べられないの?」
「まずい」
「じゃあ、死んだ人間はおいしいの?」
「うまいな」
「じゃあ、彼女を殺したら食べてくれる?」
俺は気持ちもなえて、彼女から手を引く。
(もうそろそろ潮時なのかな)
「ねえ、どうなの?」
俺はしぶしぶ了解した。
彼女は嬉しそうに喜んでいた。
駅前の雑居ビルの前に自縛霊がいた。
俺と自縛霊は見つめあっていた。
自縛霊は目玉をえぐられ、所々骨がむき出しになっている。
足がないのか、上半身だけである。
俺は自縛霊を囲むように、影を伸ばした。
自縛霊も俺の足首をつかみ、引っ張っている。
俺の影は口を開き、自縛霊を飲み込んだ。
足に絡んでいた手を、影の口に放り込むと、その場を後にしようとした。
「なんでそんなことするの?」
俺の背後には女が立っていた。
「さっきの人あんなに苦しそうに助けを求めていたのに、なのになんで?」
女は泣いていた。
女の名前を遠藤まどかという。
「佐藤明美さんですね?」
俺は道行く女に声をかけた。
その女は何処にでもいるような女だった。
特別美人で、ナンパしようとしたのではない。
女は当然俺を警戒していた。
「手紙を預かっているのですが」
俺は手紙を取り出し、女に差し出した。
女は手紙を受け取らず、俺を汚いものでも見るような眼で見ていた。
「ムカデの女からの手紙だ、と言えば分かるといわれましたが・・・」
女の眼が見開かれ、手紙をひったくった。
そしてむさぼるように手紙を見た。
「あなた、どこまで知っているの?」
「さあ、私は頼まれただけですから。それでは」
俺は顔の青ざめた彼女を放って、その場を去った。
できれば佐藤には来て欲しくなかった。
しかし、来てしまった。
俺は屋上の給水タンクの上から、様子を見ていた。
まどかと佐藤が相対し、何やら言い争っている。
どんな内容を話しているか分からなかったが、聞く気もなかった。
どうせ結果は分かっているのだ。
まどかは佐藤を殺した。
「ねえ、殺したよー。こいつ食べちゃって!」
まどかはすがすがしい、いい顔をしていた。
俺は影を伸ばして、彼女を囲んだ。
影は口を開き、まどかに歯を立てた。
「なんで?生きた人間は食べないんじゃ・・・」
「そうだよ」
「じゃあ、なんで私を・・・」
影はまどかを一気に飲み込むと、ばりぼりとそしゃくした。
そして、飲み込んだ。
俺は食後の一服をするため、タバコに火をつけた。
「あんた、一体何者?」
そこには死んだ佐藤明美が立っていた。
(きれいなものだ)
俺は湧き上がる性欲を抑え、極めて平坦に言った。
「知りたければ、俺についてくるかい?」
神村律子先生
いいですねえ、この主人公の冷徹さ。
私、こういうキャラ描けません。
どうしてもちょっぴりお茶目さんにしてしまいます(笑)
短編では勿体ないキャラなので、是非長編で!
などと勝手な事を申しました。
ごめんなさい。