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夏の終わり

「今度の決勝、うちの高校勝てたら付き合ってくれ」

「う、うん・・・」

まるでドラマのようだった。

だが悲しいかな、俺はエースピッチャーでもなく、四番バッターでもない。

ただの補欠であった。

故に出来ることは限られていた。

夏の強い日差しのもと、俺は流れる汗も気にせず、一心不乱に応援した。

かち割りを売る売り子。

吹奏楽部の演奏。

俺は観客席でメガホンを叩き、声をからしていた。

トランペットを吹く彼女を見たかったが、俺はこらえた。

仲間の一挙手一投足に歓声を上げ、嘆息をはいた。

一進一退の接戦。

九回裏、点数は六対七。

うちの高校が負けている。

ツーアウト、ランナー、一、二塁。

バッターは、六番、叶。

(頼む、叶)

俺は願った。

そして、ありったけの声を上げた。

「叶!打ってくれ!」

カキーン。

金属音が鳴り響いた。

白球は俺たちのほうに飛んでくる。

そして、

相手校の選手のミットの中におさまった。

試合は終わった。

ボールをとった選手は、両手をあげマウンドへ駆けて行った。

「そんなに落ち込むなよ」

隣に座っていた金崎が、声をかけてくれた。

俺がこの試合でどんな約束をしていたのか知っている人間である。

ほかの野球部のメンバーも、一様に俺を憐れみの目で見ている。

そして、その約束をまわりにふれ回ったのも金崎である。

俺はその場を立ち上がり、彼女のもとに行った。

吹奏楽部の連中も同様に俺を憐れんでいる。

もうあの約束は、周知の事実のようだ。

「・・・ごめん。負けちまった」

「なんで謝るの?近藤君が悪わけじゃないじゃない」

「だって、俺・・・いっぱい応援して、勝てるように祈ったのに・・・全然あいつらに届いてなくて・・・」

「私だって・・・いっぱい応援したよ・・・でも、でも・・・」

彼女は涙をこらえきれず、それでも俺に何かを伝えようとしていた。

俺も彼女の涙に誘われて、溢れてきた。

そして彼女を抱きしめ、子供のように声をあげて泣いた。

彼女の制服に俺の涙が、染み込んでいく。

俺の肩口にもユニホームの上から彼女の温かい涙が、染み込んでくるのが分かった。

涙は伝染していく。

吹奏楽部の連中も、野球部のメンバーもその他の観客にだって。


ようやっと涙がおさまり、横隔膜が痙攣しているだけである。

金崎が声をかけてきた。

「お前ら、いつまで抱きついてんだよ」

金崎を見ると、奴の顔はにやにやしていた。

ほかのメンバーも吹奏楽部の連中も一様に同じような顔をしていた。

「ヨッ。青春してるねえ」

酔っぱらいの親父が野次ってくる。

俺たちは、恥ずかしくなって離れた。

慌てていたので、彼女がバランスを崩してこけそうになった。

俺はもう一度彼女を抱き寄せた。

「お前ら何やってるんだよ。さっさと行くぞ」

俺は彼女を見送ると、急いで金崎とほかのメンバーを追った。

こうして俺たちの夏は終わった。

そして、次の季節が始まる。

磯巻 宗春先生


感動系エピソードでしたね。結果が残念でも、いい雰囲気になれた感じがします。

ただ、ちょっと終わり方がふわふわっとなってて、もう少し展開があっても良かったかなと。

今後も頑張ってください。


午雲先生


山羊ノ宮先生、夏の終わり、読ませてもらいました。ありそうな話しな処ろがいいですね!応援団という意味では、補欠クンもブラスバンドも共通体験をして居る処ろが、説得力があります。しかし。なんで野球部だけ・・・こんなにもドラマになるねん。こう思うのは、わたしだけでしょうか?感想でした。


神村律子先生


ヒューヒューって感じですね。

いいなあ、青春!

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