足立奮闘記
「日本は間違っています」
加藤は突然叫びだした。
「だいたいお盆休みとるために、何でこんなに前倒しで仕事しなきゃいけないんですか?忙しすぎて気が狂いそうです。そもそもお盆休みの在り方が、間違っています。休養は休むためにあって、疲れさせるためにあるものではないはずです」
「そうは言ってもね、加藤君。目の前の仕事をこなさないことには、休みは来ないのだから仕方ないだろう」
「その通りですね。でしたら私のノルマはもう終わっていますから、もう帰ります」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。加藤君」
加藤は足立の制止を振り切って、タイムカードを切った。
「さようなら」
そそくさと帰る加藤を足立は呆然と見ていた。
「まったく最近の若者は協調性のかけらもないな。和を尊ぶということを知らんのか」
足立は愚痴りながらも、仕事に戻った。
「室井君。斉藤君の姿が見えないようだが、外回りからまだ帰ってないのかね?」
足立は、奥にいる室井に声をかける。
「いや、斉藤さんはもう午前中に帰ったっす。何でも実家が坊主やってるそうなんで、忙しいらしいんっす」
「じゃあ何か、自分の仕事をほっぽり出して、実家に帰ったっていうのか?尻拭いする身にもなって欲しいものだな」
「いや、もう自分の仕事は午前中に全部終わらせたって言ってましたけど」
「そ、そうか。さすが斉藤君だ。仕事が早いな」
足立はまたPCに向かい仕事を始める。
それから、一時間二人は会社で過ごした。
「あ〜。室井君。そっちの具合はどうだ?何ならコーヒーでも淹れようか?」
「いや、いいっす。今リオ狩ったんで、雪山でフルルンに会いに行こうかなあと思ってるんですけど、肉足んなくて。今焼いてるところっす」
「ん?何を言っている?」
足立は席を離れ、室井のもとに向かった。
「貴様何をやっている!」
「ゲームっす」
足立の怒声に室井はしれっと答えた。
「仕事をしていたんじゃないのか?そんなことじゃ残業代なんてもちろん出んからな!」
「俺もう仕事終わらせて、タイムカード切っちゃってますよ」
「そもそも職場は、遊ぶところじゃないんだ。仕事するところなんだ。それになんだ、その机の人形どもは。ここは家じゃないんだ。もっと社会人としての自覚をもて」
「はあ、そうっすか?じゃあ、俺も帰ります」
室井はゲーム機をしまい、会社を後にした。
「まったく最近の若者は、一般常識というやつを知らんのか?」
足立は結局一人で仕事することになった。
「おーい、この文字どうやって打つんだ?『よ』が9にしかならんぞ」
答えるものはいなかった。
「そういえばローマ字表があったな。何処行った?まったくあれほど定位置管理をしっかりしろと言っているのに。こういういざっていうときに使えないだろ」
足立はやっとのことでローマ字表を探しだし、仕事を再開する。
「あとはこれを保存だな・・・これでいいんだっけか?」
カチカチとクリックし続ける足立。
「あれ、動かなくなったぞ。壊れたのか?」
押された回数だけ命令に従うPC。
「まったく。役に立たないな」
栖坂月先生
会社でモンハンとかやっちゃいけません。
それにしても何ですね。モンハン未プレイの私が、これだけの描写でモンハンだとわかっちゃうんですから、モンハンも出世したもんです。
それにしても足立さん、本当は仕事の出来る人かもしれませんが、全くそうは見えないところが素晴らしいですね。機械に弱いって人は確かに居なくもないですが、順応性の高い人は年齢とか関係ないものです。
とりあえず、残業社会にはおさらばしたいものですな。
それでは