七曜の花 -土の花ー
世の中で一番美しい花とは一体どんなものか?
そんな議題が自然とわきあがった。
神々は自分が育てた花が一番美しいと言って、誰も譲ろうとはしなかった。
結局、皆が持ち寄って品評会が行われることとなった。
儚げにきらめく花。
小さく白い可愛い花。
青く澄んだ花。
なんだかわからない緑の塊。
それは花じゃないだろうと、言われようとも持ってきた金細工でできた花。
さまざまな花が持ち寄られた。
しかし、大地の女神が持ち込んだ花は一風変わっていた。
植木鉢のその花は何の変哲もない花だった。
何処にでもある雑草のような花で、当然非難が集まった。
「何だ、その花は?」
「そんな花が世界で一番美しい花などであるはずがない」
声を荒げる神々に、大地の女神はにっこりと微笑んだ。
「そもそも美しさとは何なのでしょう?それぞれの花にはそれぞれの美しさがある。はたしてそれを比べることなどできるものなのでしょうか?」
大地の女神の言葉に、神々は沈黙してしまった。
完全に品評会は水を差された形になってしまった。
興をそがれた神々は、散り散りとなった。
ある日、月の女神は、大地の女神が花壇で件の花の世話をしているのを見つけた。
「あら、一体何をしていらっしゃいますの?」
「あら、お久しぶりですね。今、花と枝を剪定しているところです。こうすると花が良く成長して、長い間咲いてくれるのです」
「そう」
少し思案し、月の女神は皮肉っぽく笑った。
「先日、それぞれの花にはそれぞれの美しさがあると、おっしゃっていたのではなくて?その今切り落とした花は、美しくないのかしら?」
嫌みたっぷりの月の女神の言葉に、大地の女神は微笑んで答えた。
「この切り落とされた花が美しいとおっしゃるのですね?」
「そうじゃないわ。今咲いている花と変わらないと言っているのよ」
「それぞれの花にはそれぞれの美しさがあるように、それぞれの花にはそれぞれの醜さもございます。花の違いが分からないとおっしゃるのでしたら、このようなのはいかがでしょう?」
月の女神は、大地の女神がそれほど困っていない様子が面白くなかった。
「例えば、今のあなた様の御様子は、美しいか?それとも醜いか?お分かりになられますか?」
「もういいわ。結構よ」
月の女神は憤慨して、大地の女神のもとを去った。
「あらあら、お忙しい方ですこと」
大地の女神は、また剪定を始めた。
ぽとりと落ちた何の変哲もない花は、やがて枯れて、腐り、土となる。
そして、何の変哲もない花の養分となるのだ。