七曜の花 -金の花ー (残)
あるところに非常に優秀な金細工の職人がおりました。
名をコールストン。
彼は最高傑作をもって王様のもとを訪れました。
「こちらが私の作品にございます」
王様をはじめ、皆一様に感嘆の声をあげました。
コールストンの献上したのは、金色の花でした。
「どうぞ触れてみてください」
王様は恐る恐る花の花弁に触れてみました。
冷たい感触とともに、そのしっとりとした触感に驚きました。
まるで本物の花びらのようでした。
「金は元来柔らかい金属でございます。その柔らかさを花の柔らかさ、葉っぱの柔らかさ、それぞれに合った柔らかさにするのは、この私でも骨が折れました」
コールストンの言葉に、みんなは早く花に触れてみたいと思いましたが、王様は大層気に入ったのか、花をはなそうとしませんでした。
「では、褒美をとらそう」
コールストンは少し考えた様子で、
「いえ、褒美は明日頂きます。その花にはまだ仕掛けがございまして、それを見ていただいてからでも遅くはないでしょう」
と言いました。
「仕掛けとな?」
「はい」
「では明日を楽しみにするとしよう」
コールストンは恭しく礼をして、王様の御前を退きました。
そして、次の日。
コールストンは意気揚々と王様の前に現れました。
「本日もご機嫌麗しく・・・」
コールストンは周りに流れる空気の変化に気づきました。
王様はひどく不機嫌でした。
まるで気に入っていたおもちゃを取り上げられたような、そのような感じでありました。
「これは一体どういうことなのか?」
そこには金色に輝いていた花が、錆びて枯れていました。
「これこそが、私の見せたかった仕掛けでございます。元来金というものは、非常に物質の変化をしない安定した金属なのでございます。金が錆びるなどということは非常にまれな現象でございます」
「では、これは金のメッキがはがれたということじゃな?」
「いえ、これはまさしく金でできた花なのでございます。それがこのように錆びるということは非常に珍しい現象なのでございます」
コールストンの必死の説得も王様は納得していませんでした。
「金属の美しさとは、不変である故価値があるのであって、このような形になってしまっては、価値などありはしない」
「ですが、しかし・・・」
「もうよい。早くその者を断頭台へ連れていけ」
「待ってください。王様!」
「はよう連れていけ。顔も見とうない」
王様は拗ねたように、錆びた花弁をポキリポキリと折るのでした。
さびれたお墓の前。
その墓の名にはコールストンと刻まれていた。
そして、今でも彼の命日の前日、金色の花がそこには咲いているという。
少年はその花を前にして、そんな話を思い出していた。
確か祖母が話してくれたお話の中の一つだったと、少年は思う。
少年はその金色の花をもって、家に帰った。
家に帰った少年は両親に花を見せた。
そして、祖母の話を語った。
「そう言えば、俺もそんな話を母さんから聞いたな」
少年の父親が懐かしそうに語る。
「そう言えば、金色の花を探している旅人の話を聞いたわ。結構な額を出すと言っていたはずだけれど」
両親は顔を見合わせた。
そして、少年から花を受け取り、旅人のもとへと向かった。
そして、その夜。
少年は馬車の中にいた。
うつらうつらとしながら、馬のいななきを聞いた。
母親の悲鳴を聞いた。
「何なんだ?あんたらは?」
「こんな夜更けに何処に行くのです?まるで夜逃げじゃありませんか?」
「あんたは、さっきの旅人!」
「これが偽もので、それが露見するのが怖かった?それともこの花が、明日には錆びて枯れてしまうから?」
少年は眠い目をこすり、馬車の外を見た。
馬車の外には殺された両親がいた。
「私が何も知らないで、この花を求めていたとでも?」
旅人は父親に刺さった剣を、ぬるりと抜いた。
「少年。君がこの花を見つけたんだね?」
少年はコクリとうなずいた。
旅人は剣を少年の首筋にあてがう。
「君はこの花が明日になったら、錆びて枯れてしまうと思うかい?」
少年はコクリとうなずく。
「では賭けよう。明日になったらこの花は、錆びて枯れているか、それとも何の変哲もないか。賭けてみようではないか?・・・君の・・・命をね・・・ハッハッハッハッハッハッ」
暗闇の中、旅人の笑い声が響いた。
そして、金色の花が闇夜に輝いていた。