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七曜の花  -火の花ー  (残)

「バルカス。ああ、どうか無事で帰ってきて」

「分かっているよ。ウル。きっと君のもとに帰ってくる」

二人は抱き合い、熱いベーゼを交わした。

コホンと一つ、咳ばらいが二人の後ろから聞こえた。

「すまないが、そろそろ出発しようと思うのだが」

「神官長様。すまない、ウル。それじゃあ行ってくるよ」

「本当に気をつけて」

二人は再び抱き合い、また唇を重ねた。

神官長は、げんなりした顔でその様子を見ていた。

いつまでたっても終わらない二人のやり取りに、神官長は業を煮やし、バルカスの首根っこを引っ張って、連れ出した。

「ウル!必ず戻ってくるよ!」

「バルカス!愛しているわ!」

「俺もだ!ウル!愛しているよ!」

二人の愛の告白が、村中をこだました。

神官長は何も聞こえないと無視して、ほかのメンバーのいるところへバルカスを連れていく。


その村では習わしで、火山の火口に咲く花を年一回奉納する儀式がおこなわれていた。

当然その儀式は危険を伴い、何年かに一人は事故死するものもいた。

それでも儀式が行われ続けてきたのは、ひとえに村の近くにある火山への恐怖なのだろう。

今年、花を火口に取りに行く役目を受けたのは、バルカスという若者だった。

今年結婚したばかりで、役目に対しても腰が引けていた。

だが、村のため、ひいては自分の妻のためであると、神官長の説得で役目を引き受けたのである。


バルカスの一団は、火山の火口に着いた。

「この穴を降りたところに、花は咲いている。くれぐれも慎重に頼むぞ」

神官長はうなだれるバルカスに言い聞かせる。

「やっぱり俺には無理だ。誰かかわってくれないだろうか?こんな底も見えない穴の中に飛び込むなんて、俺にはできない」

土壇場になって、バルカスは臆病風に吹かれたのか、穴に下りようとしない。

それを見た村の男の一人が、バルカスに言い聞かす。

「俺も去年降りた時は、そう思ったぜ。でも一人だけが降りるんじゃないんだ。ちゃんとお前の命綱、俺たちが持っててやるから、信用しろ」

「本当か?」

「本当だ」

「本当に本当か?」

「本当に本当だ」

「本当に本当の・・・」

「しつこいぞ。バルカス。何なら命綱なしで今から穴の中に蹴落としてもいいんだぞ」

「わ、分かった」

バルカスは嫌々ながら、命綱をつけて穴の中へと降りて行った。

穴の中はあつく、長い道のりをゆっくりと降りていくと、底に着いた。

その花はすぐに見つかった。

小さく白い花であった。

バルカスは、その花を手早く採ると、命綱を二度強く引っ張った。

綱は自分の体を持ち上げ、上へと向かった。

バルカスは緊張しながらも、頭の中では愛しのウルの笑顔でいっぱいだった。

もうすぐウルに会える、そう思った時、不意に体が浮いた。

突然のことに浮いたと思ったのだろう、実際には落ちていた。

体を支える綱はなく、体を岩肌にたたきつけられながら底へと落ちた。


「これでいいんですかい?神官長様?」

「ああ、今ので確実に死んだだろう。十年に一度の贄だ。毎回のことだが、気がめいるよ」

「俺も去年聞いた時には驚きました。花の奉納の儀式自体がカモフラージュだったなんて」

「そうだな。贄と言うと村のみんながみんな納得してという訳にはいかないからな。仕方なしにと言ったところだよ」

そう言って、神官長は切れた綱を神妙な面持ちで見ていた。


「これ、そこな人間。もう死んだか?」

「誰だ・・・何も見えない・・・誰か居るのか?」

「我か?我の存在などどうでもよかろう。それよりもじゃ、貴様の摘んだ花を返してはくれぬか?我には大切なものじゃ」

「ああ・・・構わない」

バルカスは懐から花を取り出した。

「俺からも願い事をしてもいいか?」

「何じゃ?言うてみい」

「妻のウルに会いたい・・・一目でいい。ウルに・・・ゴフッ」

「死の淵にして、妻のことを思いやる。人間にしては殊勝なことじゃのう。いいじゃろ。かなえてやらんこともない。だが、生きてという訳にはいかんが・・・」

バルカスは答えない。

彼は、もうこと切れていた。

「なんじゃ、もう死んだのか。他愛もない」


バルカス無き一団が下山しようとしている時、それは起こった。

地響きがしていた。

「何だ!?」

「何が起こっている!?」

村中が混乱していた。

「神官長様!これは一体?」

「・・・何故?分からない。私には分からない!」

一人逃げ去ろうとする神官長を、取り押さえる村の男。

「逃げるな!」

「しかし・・・」

ドスンと音を立てて、男たちの間に石が落ちた。

男たちは皆一様に石のもとあった場所を見た。

火山が轟音を立て、噴火していた。

灼熱の灰と礫が、降り注ぎ、マグマはほどなくして村を溶かしこんだ。

そこには冷徹な死しかなかった。


やがて、数年がたち、そこにはもう誰も住まなくなっていた。

いまでは村の跡に小さな白い花々が美しく咲き乱れているだけである。

夢念先生


暑苦しい夜に読みました。

ウルは、最後死んだと想像するのですが、どうなったのか気になりました。簡単にでも説明があるといいかもしれません。

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