あつい
白い霧が辺り一面を覆いつくしていた。
ここがロンドンであれば、それなりにさまになっていたんだろう。
残念ながらここはロンドンではない。
湿気という気持ち悪いベールに包まれた日本だ。
昨夜の雨のせいで、湿度はお風呂の中のようだ。
このところ雨は降ったりやんだりを繰り返し、ダムを潤しながら、不景気を振りまいていた。
蝉のうるさい鳴き声を思えば、梅雨が明けたところで僕の不快感は変わらないだろう。
なぜこんなにも夏は暑いのだろうか?
地球温暖化?
ヒートアイランド現象?
それとも僕の部屋にエアコンがないせいであろうか?
答えは三つめだろう。
答えがわかっているのならば、その解決策を模索するのが筋というものであろう。
ひとえに、これは日本経済のひずみが僕の財布にひどく干渉しているせいであろう。
ならば政治家にでもなって、この日本を変えなければいけないのだろうか?
それとも経済界を引っ張っていけるような大企業の社長にならなければいけないのだろうか?
否。
僕にそのような実力がないのは、僕自身がよく知っている。
ではどうすれば・・・
脇に挟んでいたアイスノンがぬるくなったので、ここでいったん思考は中断した。
冷えたものに交換したのはいいが、今度は冷えすぎていて脇が痛むほどであった。
仕方ないので、今度は股に挟んでおくことにした。
どこまで行ったっけ・・・
そう、自分の実力のなさについてだった。
そもそも自身の力のなさをおおっぴろげに宣言するのもどうかと思うのだが、己を知り、そして相手を知れば百戦危うからずというではないか。
要するに、自分が何と闘っても負けると知っていれば、戦う前に逃げられるということである。
であるからして、今日まで何もかもから逃げ出してきた僕はこの部屋で一人寝っ転がっているのだが、夏の暑さから逃げられないでいた。
自分を知り。
お金がないので、エアコン買えない。
相手を知れば。
夏が暑いのは仕方がない。
百戦危うからず。
そして、僕は夏の暑さに頭をやられて、思考の海を夏らしく泳いでいた。