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魔女ジルルキンハイドラへの依頼

深い森の奥に一人の魔女が住んでいた。

魔女の名は、ジルルキンハイドラ。

その姿は幼女の姿をしているが、数百年の歳月を生き、その知識は海よりも深く、ありとあらゆる妙薬の知識をもっていた。

そして、遠くを見渡せる千里眼をもち、彼女の知らないことなどこの世にはないとさえいわれている。

俗世を嫌い、一匹のペットと暮らしている。

ペットの名はトットルッチェ。

人語を解する稀有な黒いライオンである。

ある日のことである。

一人の客人が、彼女の元へ訪れた。


「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」

「ふぁ〜〜〜い」

階下から呼び出されたジルは、階段をドタドタとおり、そして踏み外し、

「はわわわわわわ」

客人の前にごろごろ転がり、現れる。

「大丈夫ですか?」

「ううう、痛いです〜」

「あのジルルキンハイドラ様ですよね?」

ジルは何事もなかったようにすまして答える。

「はい。そうですけど、今日はどういったご用件ですか?」

ジルは腰をさすりながら、客人に部屋の中央にある席を勧め、自分も向かいに座った。

「今日はジルルキンハイドラ様にお願いがあってまいりました」

「お願いですか?お願いの内容にもよりますけど、一応聞きましょうか?」

「実は私、身分違いの恋をしているのです。彼女に何度思いのたけを伝えようと、まったく相手にされないのです」

「はあ、そうなんですか〜。大変ですね」

客人は美形で、線が細くまるで女性のようである。

もてそうなのに、とジルは思った。

身なりはそれほど悪くはなく、中流貴族といった感じである。

「そこで思ったのです。何としても彼女を振り向かせたいと」

ジルはお茶をすすりながら、ふむふむとしてる。

「そんな折、あなた様のお噂を聞き、ここまで足を運んだのです」

「要するに惚れ薬が欲しいんですね」

「さすがジルルキンハイドラ様、お察しが良くて助かります」

「ですが、タダというわけには・・・」

「もちろんお金は用意しております」

貴族の男は、テーブルの上に袋を一つ取り出した。

ジルはそれを手にすると、紐をほどき、テーブルの上に中身をぶちまけた。

金貨がテーブルの上を踊った。

「足りますでしょうか?」

ジルはテーブルの上の金貨を見つめ、うーんと唸る。

「少し足りないかもです。もしよければ、あなたの手の右小指いただけますか?」

「え?右の小指ですか?」

「はい。右の小指です」

貴族の男が後ずさりした時、玄関の戸が開いた。

「ジル、ただいま」

「おかえり〜。トットルッチェ。えっと、またウサギ?」

「うん。この前ジルに教えてもらった罠いいね。狩りの下手な僕でも簡単に獲れるよ」

「でもでも、ウサギさんばっかりだとかわいそうかも」

「でも好きでしょ。ウサギ鍋」

「うん。好き〜」

玄関から現れたのは、黒いライオンだった。

貴族の男にしてみれば、前門の虎後門の狼である。

男は意を決して、懐から短剣を取り出しかざす。

「・・・では小指を落としますので」

「ま、待って!そんな物騒なもの仕舞ってください」

「えっ、ですが小指をご所望なのでは・・・」

「そんな血なまぐさいことしなくても大丈夫です」

ジルは男の指を花を手折るように、ぽきりと採った。

男は痛みなく自分の指がとれたことに、目を丸くしている。

「じゃあ、惚れ薬探すので少し待っててくださいね」

そうしてジルは奥から薬を探し、男に渡した。

男はジルに感謝し、帰っていった。


「ジル、その指どうするの?」

「惚れ薬の材料にするの」

「さっき渡した薬、また作るの?」

「うん。結構楽しいよ。トットルッチェもやる?」

「・・・僕、遠慮しとくよ」

「そう、楽しいのに」


数日後、貴族の男がまたジルの家をたずねに来た。

「すみません。ジルルキンハイドラ様はいらっしゃいますか?」

奥の鍋の前にジルはいた。

「すみません。ジルルキンハイドラ様。またお願いがあってまいりました」

返事はない。

「すみません。ジルルキ・・・」

「うるさい!黙れ!とりあえず三回死んでこい!」

ジルの剣幕に、呆然とする男。

「あー、この前の兄ちゃんだね。今ジルに話しかけない方がいいよ」

テーブルと食器棚の狭い空間に、トットルッチェは挟まっていた。

「あの、ジルルキンハイドラ様はどうしたのですか?」

「あー、調合中のジルはいつもあんな風だから、気にしないで」

「そ、そうなのですか。ではまた出直した方がいいでしょうか?」

「なんなら僕が用件聞くけど?」

動物に相談するのも妙な感覚だと思いながらも、男はトットルッチェに語りだした。

「実は、あの後件の彼女とはうまくいったのですが、その後違う女性も好きになりまして。もちろん前の彼女のことも愛しています。ですが一度火のついた恋は止められないのです。ここはあの薬の出番だと思い、使いましたところうまくいきます。味をしめた私は、あの薬を使い続けてしまいました。そうしたならば、あれよあれよと関係をもつ女性が増えていき、今ではこの体が持たないほどなのです」

「そうなんだ」

そう言われれば男の様子も前回訪れた時よりも、やつれて見える。

「ですからジルルキンハイドラ様に、薬の効き目をなくす方法を聞きにまいったのです」

「ふーん」

「どうしたらいいんでしょうか?」

「どうしたらいいんだろうね?」

二人の間に沈黙が流れる。

どうやらトットルッチェは本当に話を聞くだけらしい。

そんな二人の沈黙を、ジルのできた!という叫び声が切り裂いた。

「あれ、トットルッチェ?お客さん?」

「うん。前の惚れ薬の効き目をなくす薬が欲しいんだって」

トットルッチェは男から聞いた話をジルに聞かせた。

「そうなんだ。お代の方はお持ちですか?」

「はい」

男は前回のように金貨の入った袋を取り出し、ジルに渡した。

「うーん。少し足りないかも?左手の小指ももらっていいですか?」

男は前回の経験から、快く承諾し、今度は惚れ薬の効き目をなくす薬をもらった。

男はジルに感謝し、帰って行った。


「ジル、その指でまた薬を作るの?」

「うん、今度は効き目をなくす薬」

「なんであの薬渡しちゃったの?薬の切れた女の人からどんな目にあわされるかわからないのに」

「いいのよ」

「あの人死んじゃうかもしれないよ?」

「だって私、女ったらしって嫌いだもん」

「ジルにも男に泣かされた過去があるんだね。なんだか興味あるな」

「トットルッチェ。好奇心猫をも殺すって言葉知ってる?私、猫は殺せても、ライオンは死なないのか興味があるなあ」

「ごめん。ジル。僕が悪かったよ」

その後あの男がどうなったのか誰も知らない。

夢念先生


平易な文章は読みやすく、テンポがいい。

薬の材料が物語りに何らかの影響を与えるともっと面白くなる気がしますが、文句を言うのは簡単ですが考えるのはなかなか大変ですね。

楽しく読めました。

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