DMK作戦
彼は大学生だった。
高校生の私とはそんなに歳は離れていないのに、その差は大きかった。
よく子ども扱いされてしまう。
この前の花火大会の時もそうだ。
私は母に頼んで、浴衣を着つけてもらっていた。
「由香、イベント事は男と女が盛り上がるチャンスよ。今日こそ決めるのよ」
「分かったわ。母さん」
奥の方で、父がこほんと咳をする。
どうやら羽目を外しすぎるなよと警告したいらしい。
父よ、残念だったな。
もう私はあなたの知る子供ではない!
彼と付き合って三カ月、そろそろキスぐらいさせてもらっても文句は言わせない。
いや、実際三カ月も付き合ってるのにキス一つもないって、正直どーよっと思うわけだ。
本来こういうものは男性がリードするものだろう。
彼は、律儀なのか、それとも本当は私に興味がないのか。
うーん。
そんなこんなで悶々と悩んでいたら、彼が待ち合わせの場所に現れた。
「おまたせ」
Tシャツにジーンズという極めてラフな格好である。
それにカメラの入ったカバンをもっている。
「浴衣か〜。風情があっていいね。似合ってるよ。かわいい」
彼の言葉に、私は嬉しくて爆発しそうだった。
母よ、いい仕事をした。
いや、いかん。
こんなことで舞い上がっていては、先が思いやられる。
「じゃあ、あとで二人きりで写真撮る?」
彼は私の言葉に、目を丸くしていた。
そして、
「そうだね。せっかくだから、記念に取っておかないとね」
とにっこりと笑った。
どうやら私の先制パンチはヒットしたようだ。
もう戦いは始まっているのだ。
そして最後には、
うっへっへっへっ・・・
などと妄想していたら、花火の見物会場に着いてしまった。
人込みをかき分けながら、丘の方へ向かっていく。
いろいろな屋台が並び、祭りを彩っていた。
ふと奇妙な屋台に目がいく。
「ヨーヨー釣り?」
「知らない?紙の先についた針で、ヨーヨー釣るやつ」
「知らない」
「やってみる?」
「うん」
おじさんに渡された紙の釣竿で、釣ろうとする。
ブチッ。
紙は、いとも簡単に切れた。
詐欺だ!
「残念だね、嬢ちゃん。じゃあ、一つ好きなのもっていきな」
どうやら釣れなくても一つはもらえるらしい。
おやじ、いいやつじゃねえか。
ヨーヨーの輪ゴムを指に通し、ポンポンついてみる。
意外と跳ねる。
おお、跳ねるぞと調子に乗ってついていたら、じっと見ている視線に気づいた。
彼は私がヨーヨーで楽しそうに遊ぶ姿をにんまりとみていた。
「楽しそうだね。見ていて面白い」
しまった、こんなところにトラップが!
恐るべし、ヨーヨーの魔力。
彼の中の私の子供っぽさゲージが上がったことは悔やまれるが、一度の敗北は、一度の勝利であがなえばいいと、常勝の偉い人も言っていたではないか。
ここは気にせず、作戦ポイントに急ぐことにした。
しかし、試練は続いた。
「綿菓子いる?」
欲しい!
しかし、ここは心を鬼にして耐えねばなるまい。
「ううん。いい」
「そう、じゃあ自分の分だけでも買ってくるよ」
彼はそう言って綿菓子の屋台に並んだ。
ぽつんと残される私。
・・・
嫌〜、おいてかないで〜。
あわてて彼をつかむ私だったが、彼は私の行動を予測していたのか、私を見て満足そうに笑うのだった。
敵も手の込んだ真似を!
それから、なんとかかんとか花火の見えるポイントまでたどり着いた。
花火はもう始まりつつあった。
「結構人いるね」
「河川敷の方だと席料取られるから、少し眺めが悪くてもここに結構集まるんだ」
「ふーん」
ここにきてようやく作戦が実行されようとしていた。
名づけて『どさくさにまぎれてキスしちゃおう作戦』。
略してDMK作戦である。
母曰く、
『私とお父さんが結婚した時もどさくさにまぎれてしたようなもんだから、大丈夫。結果よければすべてよしよ。ねえ、お父さん』
奥の方で、父がこほんと咳をする。
どうやら父は、恥ずかしがっているようだ。
正直父と母の馴れ初めなどどうでもいいが、私は覚悟を決め、決行する。
「ねえ」
私はわざと小声で、彼に話しかける。
花火の音で、私の声はほとんど聞こえないのだろう、彼は私の口元に急接近する。
今だ!
私はすきを見て、彼の唇にめがけ突撃した。
ガコッ。
うおおお、は、鼻がーーー。
私の鼻は、彼の頬骨にぶつかった。
彼はというと、痛がりながらも笑っていた。
そして、うずくまる私をよしよしする。
頭をなでるな!髪型が崩れるだろうが!
私は痛みと切なさで泣きそうだった。
栖坂月先生
あまり敗北が過ぎると金髪の小僧に叱られますよ(笑)
個人的には浮いた言葉を羅列されるより、こういう態度をされる方が弱いですね。
それにしても、キスはともかくとして、どさくさで結婚とかするのはどうなんだろう。
まぁ、楽しいのでアリってことで。
ともかく、軽快な文章が心地良かったです。
また来ます。それでは