上ずる声
彼女を抱きしめると、彼女の髪からシャンプーのいい匂いがした。
同じものを使っているのに、俺からはそんないい匂いはしない。
俺は彼女の耳元に愛していると囁く。
使い古された陳腐な言葉だが、それ以外に俺の気持ちを表現できなかった。
彼女はくすりと笑う。
声が上ずっているわよと。
言いなれないからなと、照れる俺に彼女はそうねと微笑んだ。
彼女は俺の腕を抱きしめ、手に口づけした。
そして、愛していると囁いた。
流暢に、きれいな声が静かな時間に響いた。
上ずっていないなと、指摘する俺に、言いなれているからと彼女は悪戯っぽく笑ってみせる。
妬いた?と尋ねる彼女に、妬いていないときっぱり答えた。
拗ねた?と尋ねる彼女に、拗ねてないときっぱりと答えた。
彼女は俺を抱き寄せ、ごめんごめんと謝る。
彼女はどうやら俺の反応を見て、楽しんでいるようだ。
俺は彼女を抱きよせ、彼女の柔らかな頬に口づけする。
彼女の細い首に口づけする。
彼女の艶っぽい唇に口づけする。
そして、愛していると囁いた。
上ずってないと、彼女が残念そうにつぶやく。
これから言いなれるからなと、俺が言うと彼女は満足したように微笑んだ。
彼女の髪からはシャンプーの匂いと、彼女のいい匂いがした。
澤またし先生
拝読しました。色気があって実に良かったです。言葉巧みというか、文章のリズムがよくて惹き込まれました。大人の恋愛って言うんでしょうか、落ち着いた雰囲気で好きです。