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父親ビギナー

「なあなあ」

俺は妻を揺り起こした。

眠そうに、なあにと起きる妻。

「恭介。なんか熱くないか。熱あるかも?」

俺と妻の間で眠る三歳の我が子は、確かに熱かった。

汗もすごくかいている。

妻は恭介のおでこに、手を当てた。

「ほんとね。熱あるかも?」

「どうしようか?とりあえず病院連れて行こうか?」

「熱高かったらそうしようか」

妻は体を起こし、救急箱をごそごそとあさる。

そして、そこから体温計を取り出し、恭介の脇に挟む。

「ちょっと持ってて」

「あ、うん」

薬箱に戻り、風邪薬を探す妻。

その間俺は、体温計の数字が上がるのをドキドキしながら見ていた。

ピピッと体温計が鳴る。

「37度6分」

「やっぱり熱あるわね。明日保育園お休みかしら?」

おろおろしているだけの俺とは違い、妻はいたって普通だった。

妻はシロップの風邪薬をもって戻ってくる。

「恭介〜」

妻に体半分起こされた恭介は、熱のせいか寝ぼけているのか、うつろだった。

「はい、飲んで〜」

妻が口元に薬をやると、条件反射のようにコクンと飲み込んだ。

それから水も少し飲んだ。

「やっぱり病院連れってた方がいいんじゃないのか?」

「明日になっても熱が下がらなかったら連れて行くわよ」

「でも・・・」

「しつこいわね」

起こされた妻の機嫌は悪かった。

触らぬ神にたたりなしである。

おとなしく妻に従った。

それから妻は氷枕をタオルでくるみ、恭介の着替えを用意した。

妻と一緒に恭介を着替えさせ、エアコンを切り、窓を少し開けた。

「お前、なんか手慣れてるよな。普通母親とかに習うもんなのか?」

「いや、私んとこ歳の離れた弟いるから自然とね」

「そういうもんか?」

「そういうもんよ」

女というものは、自分の子を十月十日腹に宿す間に、母親の気概というものが培われるらしい。

子供が生まれる前の妻は、もっとしおらしかった気がする。

たんに猫かぶりだったのか、母親らしくなったのか分からないが、少なくとも今の俺よりはましである。

おろおろしているだけの俺。

何とも情けない。

子供が生まれて三年たつというのに、今だ俺は父親ビギナーらしい。

妻はタオルケットの上から恭介のおなかをポンポンと叩く。

そして、うちわで自分と恭介を仰ぐのだった。

「かわるよ」

「はっ?何を?」

「扇ぐのかわってやるよ」

「いいわよ。明日仕事あるでしょ?」

「有給だいぶ余ってるから、明日は何とか休む」

「そう、別にいいけど」

「いいから。かわれ」

妻からうちわを受け取って、扇ぎ始めた。

十五分ほどしたら、恭介と妻から静かな寝息が聞こえた。

二人とも気持ちよさそうに寝ている。

俺はうちわを扇いで、父親レベル1上がった気がした。

真浦塚真也先生


こういう小説、僕は好きです。

 父親の情けなさというか、弱いプライドみたいなのが感じられて、楽しんで読むことができました。

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