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ハンカチ

私は雑踏の中を全力疾走していた。

もう少し私に、恥も外聞もなければ、

「待ちやがれー!!」

と叫んでいただろう。

チラリと見かけた男の姿に、少し体が硬直して動かなかった。

その間に男は私の目の前から消えてしまったのだ。

もう少し早くに話しかけようとしていれば、こんなに走らなくてよかったのだ。

勇気のない自分が嫌になる。

こんなことなら部活ぐらいしておくんだった。

息も切れて、体も重い。

さすがにかかとで踏みつぶしたスリッパのようなローファーでは走りづらい。

明日からスニーカーで登校しようか、思うほどである。

男発見。

私は声をかけず、男の肩をたたいた。

そしてポケットの中のハンカチを取り出した。

「これ・・・きの・・うの・・」

はあはあと、息を整え、そういった。


そう昨日のことである。

寝冷えしたのか、鼻風邪を引いた。

ヘチッ、ヘチッとくしゃみが止まらなかった。

人目を気にせず、ティッシュを鼻に詰めようかと思っていた時、男が声をかけてきた。

「よかったら、これ使って」

普段なら警戒して、手は出さなかっただろうが、私の頭はあいにく風邪でマヒしていた。

差し出されたハンカチで、鼻をかんだ。

その様子を見て、男はニコッと笑って立ち去って行った。

その場で汚れたハンカチを渡すわけにもいかず、家に持って帰った。

後になって、お礼さえ言ってなかった事に気が付き、後悔した。

そして、今日偶然にも男を見つけることができたのだが・・・


男は差し出されたハンカチを手に取ると、私の額の汗を拭った。

「女の子なんだから、汗ぐらいふきなよ」

誰のせいでこんな汗をかいていると思っているんだ、こいつは!

私はハンカチをひったくり、汗を拭いながら男を睨んだ。

男はにっこりと笑うと、また立ち去ろうとする。

そうはいくかと、私は彼の服の袖をつかみ

「次はいつ会える?」

そう聞いた。

男は少し驚いた様子で、少し思案した。

「じゃあ、明日同じ場所で、同じ時間に」

そして、男はニコッと笑って立ち去った。

私は男の姿が見えなくなって気がついた。

しまった。

男の携帯の番号か、メールアドレスを聞いてればよかった。

今からまた走るだけの体力はなかった。

とりあえず明日はスニーカーである。


そういうわけで、友人たちに告ぐ。

明日私が街中で全力疾走していても、声をかけないように。

私は今恋しているのである。

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