四方の壁
探偵中野直志は、不覚にも捕らえられてしまった。
薬で眠らされている間に、両手、両足を縛られ、口にさるぐつわをかまされていた。
「ここは・・・」
中野直志は、もうろうとしながらも目覚めた。
周りに人の気配がないのを確認してから、袖からナイフを取り出す。
そして、器用に手首の縄を切り、足の縄とさるぐつわをとった。
「どうしたものか・・・」
捕らえられていた場所は、四方を白い壁に囲まれていた。
天井は高く、とても届きそうにない。
窓や扉もなく、正面の壁には空気穴が小さく開いていた。
そして、部屋の中央に机が一つあった。
机の上には、三つのカギがあった。
それらのカギはそれぞれ独特の形をしていた。
一つは丸い形、一つは三角、一つは四角である。
「カギのようだが、どこかに扉があるのか?」
何処にもそれらしいところはない。
中野直志は懐からリラックスパイポを取り出し、口にくわえた。
彼はいま禁煙中である。
中野直志は、吸い口のプラスチックのところをがりがりと噛みながら、壁を叩いていった。
一様に同じ音がした。
「普通に考えれば、ここだろうな」
彼は空気穴の前にしゃがみこんだ。
覗き込んだ空気穴も変わった形をしていた。
空気穴は六ボウ星の形をしていた。
「変わった形をした空気穴に、それに合うはずのない形をしたカギ・・・」
中野直志はぼんやりと空気穴を眺めながら考えた。
(たばこが千円になるって聞いて禁煙し始めたけど、すぐすぐなるってわけじゃないんだよな。まあ、実際高くなってるっちゃなってるけど。昔はよかったなあ。コーラのむみたいに気軽に買えたのに。今じゃ吸う場所まで考えなきゃいかん世の中だし、せっかくだしこのまま禁煙するか)
彼はよっこらせと掛け声をかけて、立ち上がる。
「一応試してみるか」
中野直志はおもむろに机をつかんだ。
三つのカギがころころと地面に転がっていく。
そして、壁に投げつけた。
壁はバリバリと音を立て破れた。
「空気穴を見て、壁薄いなあと思ったけど。ベニヤ板って。手抜きしすぎだろ」
中野直志は穴をくぐり、外へと出た。
「まあ、犯人は分かってるから。とりあえずとっちめに行くか」
指をぽきぽき鳴らす中野直志だった。
水守中也先生
密室、三つの鍵、六芒星と謎を盛り込み、さらにはたばこネタでハードボイルド風に演出して、ラストのオチは・・・
いい意味で脱力させていただきました。
密室も、中野を眠らせている間に、壁を囲むように作ったのなら、ベニヤでも仕方ないかと(笑)