帰り道
夏の夕焼けの海岸線を俺と由紀は歩いていた。
俺の押している自転車には、由紀と俺の二人分のカバンが乗っており、自転車の後部には部活の道具が乗っていた。
そのためか時折ふらふらとしていた。
由紀は身軽になって、俺の前を先導して歩く。
彼女はまるで弾むように歩く。
「涼ちゃん。去年もこの道一緒に歩いたよね?」
「去年もっていうか、一昨年も、昨日も、一昨日も一緒だっただろ」
「んっもう、デリカシーないなあ。人がせっかくロマンティックな気分に浸っているっていうのに」
「デリカシーないとかいうな。っていうか、この道歩くのも高校卒業するまでだろ」
「そういうところがデリカシ−ないって言うんだよ」
「じゃあ、どうしろっていうんだよ」
「そういう時はー。海を見つめてー。・・・そうだねって呟くんだよ」
俺は海を見つめ、
「そうだね」
「似合わなーい」
「じゃあ、やらすな」
彼女はころころと笑った。
彼女の笑顔は本当に可愛い。
俺がもう一度恋に落ちてしまいそうなほどだ。
「太陽、おっきいね」
夕日はことさら自分の存在をアピールするかのように大きく。
夕日の光は、彼女の白い制服をオレンジに染め上げた。
「腹減ったのか?」
「なんでそうなるのよ」
「由紀は色気よりも食い気だろ?」
「違うもん。食い気より色気だもん」
「俺も食い気よりも色気かも」
俺は自転車を止め、彼女に向けて手を広げると、彼女はちょこちょこ歩いてきて、俺の懐にスポッと収まる。
唇を重ね、
彼女をぎゅっと抱きしめると、
彼女のおなかがグルルとなった。
「やっぱり色気より食い気じゃねえか」
「違うもん。何かの間違いだもん。っていうか涼ちゃんの舌。おいしいんだけど、もしかして涼ちゃんって食べれる?」
「食べれるわけねーだろ」
「食べてもいい?」
「馬鹿!食べるな!」
彼女はまたころころと笑う。
俺は一体彼女の笑顔にこの先何度恋に落とされるのだろうか。
もう彼女にはまりきっているというのに。
栖坂月先生
上手いですね。
正直言うと苦手なんですよ、恋愛物って。
読むのも書くのも苦手です。
でも、この彼女は魅力的だと感じました。短い文の中に存在がしっかりと浮かび上がり、なかなかに見事です。描写で外観を、台詞で内面を表現するあたり、手本になりそうだとさえ思いました。
あとはそうですね。描写に視覚以外の表現が加われば、幻でない彼女に化けそうな気がしました。
これだけの短い文章ですので、いささか贅沢な注文かなと思いますが、この情景があまりに見事だったので、あえて申し上げておくことにします。
また来ます。これからも質の高い文章、期待してますよ。