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#17 ネイトのお願い

 




「それで? どうしてあんなところに?」



 2人のお茶のお代わりと、ネイトのミルクがコップに注がれてテーブルの上に置かれた。

 ステラの説得によって、渋々元の向かいの席に戻ったアレクシスがネイトに訊ねる。



「ええと、あの、部屋の窓から、ステラ様の事が見えて、その…………とても優しそうで」


「まぁ」


「その……女神様みたいだたったから、もっとそばで見たくなってしまったんです……」


「まぁまぁ!」



 ステラの様子をチラチラ見ながら、頬を赤らめて照れ臭そうに話す仕草がかわいらしいくて、ステラはネイトの取り皿にヒョイヒョイとお菓子を乗せていく。それに驚いてペコリと下げられたフワフワの頭を撫でる手まで出てしまった。



「窓から見るだけでもと思って来たんだけど、柵がうまく登れなくて……本当にありがとうございました」


「いいのよ、助けられたのならよかったわ」


「怪我がなくて本当に良かった。したいことがあるなら僕でもソリッドでも誰でもいいからすぐに教えてね? 危ない事は止めようね」


「はい……。ごめんなさい」



 穏やかなアレクシスの言葉にしゅんとしつつも、素直に謝るネイトの姿は、ステラの心にじんわり染みるものがある。

 ここ最近の面倒くさい諸々ですっかり荒れていたステラの心中を癒してくれるようだ。



「女神様と逢えて、良かったね」


「…………はい!」



 優しく微笑むアレクシスにネイトが嬉しそうに応えるのを見ていると、2人の間にはこの短期間で良い信頼関係が生まれているのが伝わってくる。


 アレクシスは、ネイトの言う事に同調し、しっかりと受け止めている。彼を否定する訳でもバカにする訳でもなく、感覚とか感性を尊重しているのだろう。

 先程の話からも、無理やり押し付けるようなことはせずに、ネイトが自主的に行動を起こすのを待っているのが窺える。



(やっぱり、いい人だな。変態だけど)


「え? なんでそんなに見て……? まだ何もしてないけど……?」


「いい人だな、と思って」


「え!?」



 突然のステラからの褒め言葉に、アレクシスは目をぱっちりと見開いて硬直した。耳まで真っ赤な彼の顔を見て、ネイトがこそこそとステラに訊ねた。



「あの、お2人は……その、恋仲なのですか……?」


「へ?」


「とても仲良しだから、そうかなって。……すみません、僕お邪魔でした」


「いやいや、いや。いや、違うわよ」


「…………そんなにイヤイヤ言う事ないじゃないか……」



 ステラが慌てて否定すると、アレクシスが恨めしそうに抗議の眼差しを向けた。だって違うんだからそう言わないでどうする。ステラがしっかりとした咳払いをして、口を開く。



「私も、これからこちらの工房でお世話になるのよ。ネイトと同じ。よろしくお願いしますね」


「ほ、本当?」


「ええ。学校卒業の後なので、すぐではないのだけど」


「で、でしたら!」



 ネイトは急に立ち上がると、ステラに向けて小さな頭を下げた。



「ステラ様に、お願いがあります!」




 ◇





 数日後――――



 穏やかな午後の日差しの中、ストックウィン邸を訪れたステラは、鮮やかな花が咲き誇るの庭園へと通された。

 白を基調とした四阿は、自然を活かした森のような庭園にしっくりと馴染んでいて、穏やかな気持ちでゆっくり花を楽しむ事が出来る居心地のよい場所だ。


 ステラがお茶をひと口こくりと飲み込むと、遠くから人が駆けてくる気配がする。

 カップを置いて立ち上がると彼の弾むような足取りが見えて、自然と口元に微笑みが浮かんでしまう。



「ステラ様! お待ちしておりました!」



 初対面の時よりも溌剌とした顔のネイトが、大きく手を振りながら駆け寄ってきた。

 どれほど急いできたのか、ネイトは上がる息を整えようと深く呼吸する。冷やしてあったレモネードを注いで差し出すと、ネイトはそれを一気にあおってふーっと息を吐き出した。



「ごきげんようネイト。今日も元気いっぱいね。でもそんなに急がなくても、私は逃げませんよ?」


「……でも、早く……お逢いしたくて……。到着したって聞いて、走って……」


「まぁ、ネイトったら。さぁ、どうぞ。一休みしてね」


「ありがとうございます」



 レモネードのお代わりを注ぐと、ネイトは一礼してステラの隣にちょこんと座る。

 コップをお行儀よく両手で持って、美味しそうに味わっている姿は、小動物のようでかわいらしい。

 ステラの中の母性を思いっきりくすぐられながら鑑賞を続けていると、また遠くの方から人が来る気配がする。


 決して走ることなく、優雅に、でもとても急いでいる、といった感じだろうか。足音の主が誰なのかは、まったく想像に難しくない。



「ごきげんよう、アレクシス様。今日もお邪魔しておりますわ」



 やはり急いできたのか、ほんのり息の上がったアレクシスが、乱れた髪をサッと撫で、ステラへ笑顔を向ける。



「ようこそ、ステラ…………。ネイト、なんでそんなに速いの……?」


「ソリッドさんが教えてくれました! 僕ずっと待ってたから」


「暇があれば玄関の様子を覗いてそわそわしてるものですから、早く教えてあげたいと思いましてな」



 アレクシスの後ろから現れたソリッドは、すました顔でステラへお茶のお代わりを勧める。

 ムム、と言葉に詰まったアレクシスは、今日もステラの隣に座る。先日からステラの隣に座るようになったアレクシスだが、膝がぶつかる程の距離まで近付いてくるので、正直ステラは窮屈に感じていた。



「あの、アレクシス様、ちょっとお膝が近すぎでは? お茶が飲みにくいったらないんですけど……」


「そう? 親睦を深めなくちゃと思って」


「ステラ様、もう少しこっちに詰めますか?」


「ありがとうネイト……って、アレクシス様もこっちに来たら意味がないでしょうが」



 いつもは風のそよぐ音しか聞こえない庭園が、ここのところやけに騒がしい。

 ステラがこうして公爵家に日参しているのは、他でもないネイトの『お願い』のためであった。




 ◇




「こう……で、良かったかしら」


「はい、お願いします」



 四阿の中、ステラの向かいに移ったネイトがにっこりと頷く。

 ステラは彼の正面から少しだけ角度をつけて座ると、顔をあげて前方を見据える。


 あの日ネイトは、ステラにスケッチのモデルをして欲しいと願った。

 意欲的な彼の力になれるならと、二つ返事で了解したステラは、毎日のようにストックウィン邸を訪れて、こうしてネイトのスケッチに付き合っている。



「ステラ様、今日も素敵です」


「ネイトったら、お世辞は要らないのに」


「いやいや、今日の君もとても素晴らしいよ」


「………………アレクシス様、そんなに見ないで下さい」



 そして、ステラの隣には当然のようにアレクシスがニコニコと座っている。

 ネイトの願いに微妙な表情を見せたアレクシスだったが、自分が側に付く事を条件にスケッチの許可を出していた。

 毎回、ステラがスケッチが終わるまで動けない事をいいことにしっかりと横に陣取り、その様子をじっと観察している。



「こんなチャンスはあまりないからいいじゃない。動けない君をしっかり観察するの、楽しいよ」


「…………どういう事ですかそれ」


「うん。僕もこんな趣味があるなんて知らなかった。新しい扉を開くってこういうことをいうんだね、きっと」



 テーブルに肘をついて妖しげな笑みを浮かべると、気だるい感じが妙に色っぽく見える。

 そんな顔をしてそんな発言をするから変態度がどんどん増していくのだ。子供の前でそれはよくない。

 ステラは自分のクラッチバッグから、白いハンカチを取り出した。



「はい、アレクシス様」


「ん?」


「この間見たいって言ってたハンカチです。ほら、白地のリネンに同じ白糸で刺繍が入ってるんですよ。うわ、見てくださいこの繊細な柄! キレイですねー」


「ぐっ……」


「さぁ、今ならさわり放題見放題、頬擦りも出来ちゃいますよ?」


「くっ……! バカな! 体が勝手に……」



 プルプルと震えながら、彼の手がハンカチに延びるのを見て、ステラは勝利を確信する。

 アレクシスは複雑な表情でハンカチを優しく手に取り、泣き言を呟きつつしげしげと観察するのだった。



「うぅ……嬉しくないのに嬉しい……僕のバカ……」






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