#11 王の采配
日付が変わってしまいました……申し訳ありません……
11話です!
腰が抜けて立っていられなくなるローラを、傍らの騎士が支える。
今だに困惑の表情を浮かべて、『ゲームが』『キャラが』とブツブツ呟いている。その脇を騎士達に支えられながら彼女は部屋を退出していった。
会場は大きなざわめきに包まれて、ステラとアレクシスはぼんやりとその様子を眺めている。
「最強……極悪令嬢」
思わず口をついて出たのは、ローラが話していたステラの凶悪な通り名だ。もしかして自分が知らないだけで、周りから陰でそういう呼ばれ方をしていたのだろうか。
そんな思いが顔に出たのか、アレクシスが優しく言葉を掛けてきた。
「誰もそんな風に思っていないよ、大丈夫」
「ありがとうございます。あんまり気にしてませんよ」
「目つきが怖いときがあるだけだもんね。極悪はちょっと言い過ぎだよね」
「…………」
「えっ…………なんで今その目?」
アレクシスはすっかり元の穏やかな青年に戻っていた。
能力を使い少し疲れたのか顔色が悪いが、一言余計なところなど、いつもの彼である。
「大丈夫ですか? お疲れのようですけど」
「ありがとう、今日は多めに力を使ったからね。少し休めば……」
「どうしました?」
言い掛けたまま止まってしまったのが気にかかる。ステラが顔を覗くと、アレクシスがへらりとした笑顔でのたまった。
「いや、今日の君のブローチを見せてもらったら、すぐ回復するなって」
「却下です」
ステラの胸元のカメオのブローチを指差したアレクシスを、スッパリと切り捨てる。
えー、という不満の声を背に壇上を注視すると、王が右手を上げて、聴衆のざわめきを制しているのが見えた。
「ローラ嬢は、何か我々の知らぬ事を知っているような口振りであった。それが他国の情報なのか、神の啓示なのかも今はわからぬ。罪に問うのであれば事情を聞いた後になろう」
王はそう言うと大きく息を吸い、呆然と崩れた姿勢のままの息子へと声を掛ける。
「そしてバイロン、お前にも話を聞かねばならんな」
「ち、父上! お待ちください! ご覧の通り、私は彼女に騙されていたのです! 私は被害者です!」
その言葉に焦った様子で顔をあげたバイロンは、我を忘れて弁明するが、その様子に王は鋭く目を細めた。
「お前は…………公式な場では父とするなと、何度言えば理解するのだ?」
「も、申し訳ありません。ですが父……陛下、私は何も知らされず、ただ彼女への気持ちを利用されたに過ぎないのです!」
「確かに存分に躍らされたな。だが、お前に聞きたいのはその話ではない」
「は?」
何の事だ?と言わんばかりに呆けた顔のバイロンに業を煮やし、王が話を続けた。
「…………公衆の面前で婚約破棄とはひどいことを思い付くものだ。更には国外追放に死罪だと?」
「い、いえ! 私はステラに謝罪させ、婚約破棄をしたら良いと思い付いたまでで、それは彼女が」
「ほう、何も考えていなかったと申すか。ステラが今後、周囲からどのような扱いを受けるのか」
そんなことを考える脳みそがあれば、公開婚約破棄なんてやるわけがない。ステラがひっそりと頷く。
バイロンの思惑通りになっていればもちろん、ステラに瑕疵がない場合でも、次の婚約は難しいだろう、ということだ。
ステラもその点は認識していた。
寧ろ『もし婚約解消できたら』という妄想をするときには必ず組み込んでいた項目なので、その後のプランなら掃いて捨てるほど出てくる。
(一番現実的なのは、ピルチャーに戻って領地の仕事をすること。一番夢があるのはアクセサリー職人の修行に出ることよ!)
ぜひにと望まれるならば婚姻もあるかもしれないが、不仲だった王族との婚約解消となれば、貴族からお声が掛かることはまずなさそうだ。
その事に悲観的な思いはない。
だって次の相手にバイロンと同じ人種が来たら、ステラは立ち直れないかもしれない。
だったら一人の方がいい、心からそう思えたのだ。
「誰か好いた相手が出来たのなら、ステラに真摯に告げるべきであろう? その上で今後の事を話し合い、相談すべきだった」
「ぐ……」
「少し頭を冷やし、北方の騎士団で叔父上に鍛え直してもらってこい」
「そ、そんな……」
北方騎士団は国内でも最も厳格な規律を尊ぶ騎士団だ。先王の弟である御年90歳の大公様が現役で指揮を執る。
鍛練の過酷さも並みではなく、一度行って戻った者の人相が変わるほどらしい。
青い顔でへたりとその場に座り込むバイロンを横目に、王はアレクシスとステラの方へ体を向けた。
「ステラよ、長いこと済まなかった。これは親である私の責任が大きい。全てお前の良いようにしなさい。嫁に迎えられない事は残念だが、よければ縁談の手配も出来るのだぞ?」
「もったいないお言葉ですわ、陛下。ありがたいお申し出ではありますが、今すぐ動くつもりはございませんので、お気持ちだけいただきます。…………ただ、バイロン様との婚約解消だけは、確実に行っていただくようお願い申し上げます」
一礼と共に、ダメ押しの一言を放って、ステラは内心でほくそ笑む。
王は大きく頷くと、ステラの期待に応える言葉を口にした。
「あいわかった。今これを境に、バイロンとステラの婚約を破棄する! バイロンの不貞によるもので、ステラに瑕疵はないものとする!」
聴衆が再びどよめきを見せる。
同じ……いやそれ以上に、ステラの内心も喜び、興奮ぎみにざわめいている。
表のステラはあまり感情が出過ぎないよう、抑えることに必死だ。
更に王は、アレクシスに対しても労いの言葉を口にした。
「アレクシス、ローラ嬢の身辺調査、誠に大義であった」
「お言葉、痛み入ります」
「…………はぁ?」
王からの労いの言葉を受けて一礼するアレクシスの背後から、くぐもったような絞り出す声が聞こえた。
「…………身辺、調査、だと?」
ゆらりと立ち上がったのは、うちひしがれていたバイロンだ。
「貴様……それで俺たちに近づいて来たのか……? ローラの身辺を探るために」
怒りで顔を赤くして、敵意に満ちた眼差しをアレクシスに向けている。
爆発寸前、といった様子のバイロンに向き直ると、アレクシスが毅然とした口調で反論する。
「近づいて来た、というのは間違いです。僕を召集して『友人が虐めを受けているので、犯人を探して欲しい』と依頼をされたのはバイロン様、あなたです」
「うるさい!」
「……ご友人というのがローラ嬢だというのも当日に知ったことですから、まるでそれ目当てのように言われるのは心外です。それに元々、先約の依頼があるのでお断りしたのをお忘れですか? どうしてもと食い下がったのもそちらです」
「だまれ! だまれだまれ!! ………お前さえ居なければ!!」
激昂したバイロンがベルトのバックルを外して、腕を大きく振りかぶる。その手の中で、鈍い鉛色の刀身がギラリと反射した。
刃物だ――――頭で思うよりも先に、ステラの手が伸びた。
お付き合い下さりありがとうございます!
気になるところで途切れてしまいましたが、次回は水曜日です。よろしくお願いします!
(今度はきっちり間に合わせます!)
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