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私は仕事終わり、夜20時のゴミ捨て場で未成年の純白髪_俗語としてロリと呼ばれる生命体を拾った。
根っからの文系であり、お節介焼きの正義漢である私はそのまま放って置くことが出来ず、電池の抜けた機械のように動かない彼女を家に連れて帰ることにした。
決してやましいことがあった訳では無かったが、それが私に奇異な人生を辿らせる変数であったことは間違いない。
勘違いしないで欲しい、奇異な人生とは未成年淫行により私が捕まることを指しているのではない。
それはもっと素敵で、あるいは最悪で、私のお節介で正義漢なこじらせた性格でなければ、道端に投げ出していた運命であったかもしれない_ということだ。
私は都内某所のマンションに人間という生き物に欠かせない拠点を構えてある。
始めは少女をバネの死んだソファに寝かせていた。
ただ、一時間経っても二時間経っても起きたりしないものだから、徐々に心が汗をかき始めた。
それは少女を家に連れ込んだことへの罪悪感と羞恥心と背徳感、そしてバネの死んだソファに寝かせたことで彼女が腰を痛めていないか?という心配、最後は私の家、臭くないか?という憂い。
この場合、前者はどうにもならない。ソファに関してはじゃあベッドにうつせよ!って問題なのかもしれないが、そんなことしたら私あなたが起きたらヤル気満々ですヨ!!ってアピールしているのと変わらない!あと私のベッドにはきっと加齢臭がうつっている、無理だ!私の家はどうしてもいい匂いになどなるわけが無いのだ。
突発的に行動してしまう自分を責めながら、待てど暮らせど目を覚ますことのなさそうな彼女を見つめた時、その碧い双眸が見開いた。
「_ここは」
私はこの場所が何たるか、主観を混じえながら説明した。
「おじさん、変な人だね」
必死に弁明している私を笑う少女、よかった私を通報する気はなさそうだ。
「お腹空いた」
彼女の腹がグゥ~っとなる、なぜかアイドルは排泄をしないという常識を覆されたかのごとく衝撃を受けた。
簡単なものしかないが_と一言添えて私はかっぷらぁめんを作って差し上げた。
「なにこれ」
知らないのか、いいとこのお嬢さんなのかな?と考察。
いや、いいところのお嬢さんであれば私の立場はより厳しくなるのではないかと、考えた後、豚骨らぁめんの説明をした。
「とん…こつ?へぇ」
彼女は汁をすすり始めた、ノンフライ麺でヘルシーだ。
これなら年頃の女の子も納得して頬張ってくれるはずだ。(私の肥満対策である)
「おいしいね、これ。でも熱いよ。手じゃ食べない」
そこに割り箸があるじゃないか?と私はいった。
「こんなの使えないよ、一本の棒じゃん」
驚いた、ご令嬢は割り箸の使い方すら知らないのか。いや、仕方ないことだ。それでこそ高潔な花という証。
私は実際に割り箸を割ってみせ、彼女に渡した。
だが、少女は首を傾げるばかり、なんと!最近のご令嬢は箸の使い方すら……なんてことはないはずだ。
よく見れば、たしかに髪の色しかり目の色しかり顔の形状しかり、日本人ではない、そんな気がする。
ただし、日本語が伝わるところを見るとハーフなのではないか?っと考えた。
「これは?」
樹脂の三又、またの名をプラスチックフォーク。これであれば熱々の麺を思う存分すすれるはずだ。
「こうやって使うんだ、ありがとう。食べるね」
不慣れな手つきで食べ始めた。フォークすらまともに使えていないところを見るとインド人なのでは?と思ったがさすがに容姿が違いすぎる。
そうだ、忘れていた。彼女はゴミ捨て場で捨てられていたのだ。なにか深い理由があるに違いない、その通りだ。
「食べたよ」
そうか、こういうときはごちそうさまって言うんだよ。令嬢よ。
「ご、ごちそうさ…ま?」
さて、これからどうしたものか。保護していたと言って児童相談所にでも行くか……。
「おじさん」
いったいなんだね。先から気になっていたがおじさんというのは芳しくない。私はまだ20代だし、ね。うん。
「おじさんはおじさんでしょ、幸薄そうだし」
痛いところを着くな君は。
「おじさんさ、幸薄そうってことは今の生活に満足してないでしょ?」
一体何の話だ。満足するも何も、人間という生き物はひとたび社会の動滑車に変化すれば、それから満足という感情を抱くことが難しくなるもの。私は気にしてなどいない。
「目、瞑ってよ」
目?
「そう」
私は少女の言われるがまま目を閉じた。
特にあんなことやこんなことを想像していた訳では無い。
いたいけな少女にムフフな感情を抱くほど、私は疲れていないからな。
「開けていいよ」
よし、開け_
「じゃあ、歩こうか」
緑いっぱいの大草原、どうやら私はこの少女に痛みもなく殺されたか、もしくはたいへん危険なドラッグを注入されたかのどちらか。
「どうしたの?いくよ?」
行くってどこに_
「国だよ、私の国」
どうやら私は地獄にでも行くらしい。