春は出会いの季節
「すご……」
鏡悠莉、東京に着きました。東京はすごいです。
もうね、何が凄いって、人が多い。
僕の住んでるところが田舎だからってのもあるけどこれは異常。
テレビで見たことはあったけど実物を見るとやはり圧倒されてしまう。
「えーと、ここの住所にいけば良いんだよな」
母さんはいけば分かる……なんて言ってたけど、どういうことなんだろうか。
これからどう生活するのかサッパリ分からないのである。
茶目っ気たっぷりの顔で言われたときは驚いたが、母さんに限って適当なことはしないだろう。
というか住所だけ書かれた紙じゃ分からん。
こういうときのスマホのマップ機能である。非常に便利。
こっからは……ちょっと遠いな。まあバスとかで行けばいいかな。
あっ、そうだ。東京でちょっとやりたかったことあったんだよね。やろう、うん。
「ヘイ、タクシー」
◆◆◆
僕は今、死のどん底にいる。と言っても過言ではない状況に置かれている。
やっちまった……
タクシーってあんなお金かかるのかよ……
タクシーに乗ったときの運転手さんの訝しげな表情はそういうことだったのか……
というかタクシーの運転手さんには感謝すべきだろう。
「あの、お金は大丈夫なんですか?見たところ学生さんだよね。払えるのかい……?」
こんな風に忠告してくれたのだから。
これを言われた時点でタクシーを停めて貰ったのだが、後の祭りである。
「はぁ……」
落ち込みながらも歩みを止めずにいた僕は、とうとう目的地に着いた。
そこにあったのは……
「家……?」
家だった。それもめっちゃ大きい。見た感じ3階くらいありそう。
「取り敢えず、インターホン押してみるか」
ピーンポーン
『はーい』
女性の声?
ドタドタとこっちへと向かう足跡が聞こえる。
ガチャッ。
ドアが開かれるとそこには、亜麻色の髪をした女性がいた。
……あれ、なんでここに……?
「雪希さん……?」
「ふふ。久し振り、悠莉くん」
そこに立っていたのは昔よく遊んでくれていた、姉貴分の雪希さんだった。
「な、なんでここに雪希さんが……?」
「ふふっ、早く中に入って。みんな待ってるから」
「え、あ、ちょ、ちょっと!?」
数年振りの再会で呆気にとられていると、手を引っ張られ、中へと連れ去られた。
◆◆◆
「みんなー、悠莉くん来たわよー!」
雪希お姉ちゃんはリビングらしき場所へと俺を連れていき、
……え?どういうこと?そこにいたのは全員僕の知っている人だった。
「お、やっと来たか。よっ、久し振りだな、悠莉」
そこにいた男性が親しげに話しかけてくる。
確かこの人って……
「唯さんじゃん」
「そうだ。愛しの唯お兄ちゃんだぞ~」
揶揄うような笑みを浮かべているこの男性は唯さん。確かだけど今年で22歳。凄い人。
「久し振りね、悠莉?元気だったかしら?」
「吹雪さん」
艶やかな黒髪をポニーテールに結ったこの女性は吹雪さん。確か21歳。凄い人。
てかこの人らがいるってことは……
「渚さんはいないの?」
1人、いないのである。
「あぁ、渚のやつは入学式に向けての打ち合わせだ。生徒会長としてな」
生徒会長……
凄いな。昔っから勉強の出来る人だったけどまさか生徒会長になるとは。
いや、今はそこじゃない。
僕の記憶が正しければここにいる人の苗字は総じて"柊木"という苗字である。
偶然ではない、理由は簡単だ。
全員が兄弟なのである。
長男:柊木唯 21歳
長女:柊木吹雪 20歳
次女:柊木雪希 19歳
次男:柊木渚 17歳
こんな感じだ。
しかし疑問が残る。
「なんでみんなここにいんの?」
「なんでってそりゃ、一緒に暮らすからだろ?美桜叔母さんから聞かされてなかったのか?」
聞いてない……
なんでこんな重要なこと教えてくれなかったんだ。あとでメールで文句言おう。
「その顔だと聞いてなかったみたいだな。美桜叔母さんは昔っから悪戯癖があったが、まだ治ってないみたいだな」
「お恥ずかしい限りで……」
「まあ、いい。今日からお前もここで暮らすからな。部屋もあるし、荷物も届いてあるから、荷ほどきでもしておけ」
「うん」
ちなみに柊木家の両親は仕事柄海外に出張することが多く、ここにはいない。
いきなりで驚いたけど、みんなが一緒なら大丈夫そうだ。