春は別れの季節
「それじゃあ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。悠莉」
「行ってらっしゃい……お兄ちゃん」
「気を付けなさいよ?東京には悪い人がいっぱいいるんだから。貴方も安全運転をしてくださいね?」
入学早々、怪我なんてしたら……なんて言葉を吐きながら心配そうに見つめる母さん。
「当たり前じゃないか母さん!僕がしっかり届けるよ」
「そう、ならいいのだけど....もしも事故なんて起こしたら、ね?」
「は、はははははは、はい!承知しておりますぅ」
さすがかかあ天下の我が家。
父さん可哀想(笑)
「お兄ちゃん。東京に行って綺麗なお姉さんに声を掛けられてもついて行っちゃ駄目だよ?ぜぇぇったい悪い人だからね!」
酷い偏見である。東京の人ごめんなさい。
「分かってるって。それに紗羅も風邪には気を付けてね?」
「分かってるって!」
何故怒った……まあいつものことか。
そんな雑談を交わしていたのだが、母さんはいきなり真剣な顔をして口を開いた。
「悠莉」
「?なに?母さん」
「貴方は今から東京へ行きます。当然そこには大きな苦労が伴うでしょう」
「そうだね」
「だからね、これだけは約束して。辛いことがあったらうちに帰ってきなさい。悩みがあっても塞ぎ込まないこと。私たちは他の誰でもない、貴方が一番大事なの」
交わしたのは少しの言葉。しかしそこには親としての最大の愛が込められていた。僕は込み上げる涙をグッと堪え、「うん」とだけ言った。
「悠莉、そろそろ時間だ。行こうか」
「分かったよ。じゃあ……行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
◆◇Now lowding◇◆
「なぁ、悠莉」
家を出て、数分たった頃。不意に父さんが話しかけてきた。その横顔はいつになく真剣だった。
「なに?」
「何か相談とかはあるか?折角最後の時間は一緒にいられるんだ。今くらい父親面したっていいだろう?」
何だそれは。
「特に無いよ。思い残しもないし」
僕は苦笑しながらそれに答える。
「ははは、そうか。じゃあ父さんとこれだけは約束しろ!彼女は作ってもいいがな、妊娠だけはさせるなよ。そういうことは20歳になってから―――」
「なに言ってんの父さん」
「ははは、今まで浮いた話が無かった悠莉とて高校生。そういうことに興味も――」
「ねえよ!」
「遠慮するな。父さんだってな、母さんと高校生の時に初めて―――」
「黙って運転しろボケェ!」
「ちょ、ビンタはやめろ!」
◆◇Now lowding◇◆
「着いたぞ、降りろ」
家から一番近い駅に到着した。ここからは新幹線で東京へ行くのだ。
「切符、落とすなよ。寝過ごしてもいかんぞ」
「分かってるって。じゃあね」
「おう、行ってこい」