金切り声と啜り泣き、そして絶叫
俺と夕日さんが喧嘩した。割りとよくあるのだ。
夕日さんは静かな所が好きだ。俺のテレビを観ている音が気に食わないと駄々を捏ねる。
「出て行く! 出て行きたい! 実家に帰りたい!」
「勝手に帰れよ」
「帰る所なんてないんだ! 私は死ぬしかないんだ!」
そう言って夕日さんはスマホを弄って何処かに電話を始める。ぼそぼそと聴こえる金切り声と啜り泣きがいらついて、俺はテレビの音を大きくした。
「私は何処で道を間違えたのかな……1年前かな、10年前かな……生まれた事自体がもう間違っていたのかな……」
前にも言った通り、夕日さんには死ぬ才能がない。だけれど生きる才能があるとも思えない。
だん!
「後悔しかねぇ人生なのかよ! だったら、俺と暮らし始めた事も間違いだって言うのかよ!」
びくりと身体を震わせて泣きじゃくる夕日さんは、「真昼君、ごめんね。ごめんなさい、怒らないで。怖い、怖いよう」と、親に叱られた子供のように「ごめんなさい」「怖い」を繰り返す。
モラハラ旦那が嫁にするように、俺は無視してバイトに向かう。
「今日のご飯、何にする……? 真昼君の好きなのにするよ……」
「外で飯食ってくる」
バタン。
鍵を掛けた薄いドアの向こうから、夕日さんの絶叫が聞こえた。