めんどかわいい
「私には才能がない……もう駄目だ死ぬしかない……」
夕日さんは今日も病んでいる。パソコンの前でタイピングをしていたかと思うと、項垂れて布団に潜り込んだ。
「夕日さん、前読んだ奴面白かったっすよ」
「……あの程度の文章で私の才能を推し図られると実に不愉快……」
夕日さんは褒めても貶しても大して反応が変わらない。なので、俺がどんなに才能を褒めても機嫌が直る事は無い。
「夕日さん」
「……なに」
「昨日の晩飯、すげー美味かったっす」
ばっ!
布団から出て来た夕日さんは、実に自慢そうに胸を張っていた。
「でしょでしょ! あのお肉特売だけど良い奴なんだよね! 得しちゃった!」
「俺からするとすげー事してるっす。飯美味いし」
あ、めっちゃ嬉しそうな顔してる、夕日さん。
「有難う! 今夜のご飯は何が良いかな!?」
「偶に魚食いたいっす。あと、夕日さん、今の髪型超イケてるっす」
飯のついでのように髪型を褒めると、少し長い前髪をかきあげて、夕日さんは格好付けた。
「分かる? 昨日美容院行ってきてね! イケメン? 私イケメンかな? 若く見えるって言われてねー」
「そっすね。夕日さんは20代でも通用しますよ」
「よし、書く気になったよ有難う!」
夕日さんはそう言って、パソコンの前に向かってタイピングを始める。
この夕日さんが落ち込んでる時に俺がよいしょするはいつもの事なのだが、夕日さん曰く「凄く有難い事」らしい。俺はちらっと見た夕日さんの文章は面白いと思ったし、飯が美味いとかは本当の事言ってるだけなんだけど。
夕日さんのそんな所が可愛いとか思う。おっさんなのに。