小説家志望はチョコレートがお好き
「よっし、と……お疲れ様でーす」
「おう、お疲れ様」
俺が働いているダブルワークの夜の方、居酒屋のキッチン。食べ物の良い匂いがするけれど、『あ、これは夕日さんが苦手なタイプの香りだ。帰ったら即風呂入ろう』と、瞬時に思ってしまう程度に同居生活には慣れてしまっているし、夕日さんの事は知ってるつもりだ。
『賄い飯も美味いけど、夕日さんのご飯の方が優しい味がして好きなんだよなぁ』
そんな事を俺が思っていると、「真昼ー。大入り袋だ! 同棲してる姉ちゃんに土産でも買って行きな! 女は甘い物好きだからな、コンビニスイーツとか良いんじゃないか?」と気前の良い店長に微妙な勘違いをされつつも、薄いけれど懐には温かい袋を有難く頂いた。これは夕日さんに使ってあげて、日頃の美味い飯の感謝を伝えよう。
『スイーツか。夕日さんはアイスとチョコレートが好きなんだよな。こんな時間じゃコンビニしか開いてないか』
近所に1件ある、徒歩数分のコンビニに寄ると、見覚えのある後ろ姿があった。ボサボサ頭でひょろりとした、如何にもご近所に出掛けました、と言うダサいスウェットを着ている。
「夕日さん」
「……あれ、真昼君?」
アルコール類の棚で立ち止まっていた夕日さんが俺に気が付いた。
「夕日さん、何か食べたいものありますか? 偶に奢りますよ」
「偶にじゃないだろう。いつも買ってくれてるのに。うーん。ビールとビーフジャーキー……」
「甘い物で。甘い物はストレス軽減になるらしいっすよ?」
夕日さんがチョコレート好きなのは、実は無意識にストレス発散と、ほら、最近はチョコレートは睡眠の質を高めるとか言うし、夕日さんは眠りが浅いと言うし。それ系なのかな、と勧めてみる。
「えー。じゃあ、チョコアイス」
なんでそこで纏めた。
「……チョコレートとダッツを買いましょう」
「え……そんなにお高いアイス良いの?」
「良いんす」
割りと、気を遣ってるんだけどなぁ、って俺の不器用な愛情表現は、ダッツをそっとないないしている夕日さんに伝わっているのだろうか。