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夕日さんには才能がない。

 夕日さんは精神障害者だ。

 こう言うと偉い人とか見識のある人に怒られるだろうけれど、一昔前だと『○ちがい』と言われるタイプだ。よく聞くうつ病とかとも違って、ご大層な病名がついているらしい。

 今日も夕日さんが発狂している。

「びええー! うぇ、うえ、ええー! おええー! 私は生きる価値がないんだ! 死ねば良いんだ! 死ね! 死ね! 全員死ね! 私諸共全世界滅びろ!」

 また始まった。

 布団に頭を打ち付けていたかと思うと、徐ろにふらりと立ち上がって、キッチンへと移動して包丁を物色している。

「き、切れ味が足りないね。あはは。手首を切っても死ねないから、手首から切り落とさないと……」

 夕日さんの手首には傷がない。所謂リストカットの痕はないのだ。

 代わりに耳にピアスの穴が沢山開いている。手首を切りたくなったら、美容外科に行ってピアスを開けて貰うそうだ。耳朶にも軟骨にも適当な場所に隙間なく開いているので、夕日さんが全部のピアス穴にピアスをつけると、そこら辺のバンドマンよりロックしている。どうでも良いが、夕日さんはロックが好きだ。

「俺は仕事に行くけど、夕日さん死なないでね。夕食は肉が良いな」

「夕食はお肉ね……い、生きてたらね……」

 そう言うやり取りをして、俺はバイトに出掛けて行く。

 こんなやり取りは何度かあった事で、夕日さんが死んでいるのを見た事がないので、多分夕日さんは今後も死なない。

 前に夕日さんが話していた事がある。

『口に出すだけ、脳内でなぞるだけ、何も言わずに実行するだけ。本当に死ぬ人はね、3つ目の才能がある人なんだ。私には死ぬ才能がない。だから、私は小説を書くんだ』

 夕日さんは今日も死なずに、小説の中で人を殺しているだろう。

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