何気ない日常の話
「ただいま。はー、今日も疲れた……」
「お帰りー。真昼君。お風呂沸いているし、ご飯も炊きたてあるよ」
「あ、先に飯で」
「ふっふっふ。今夜はなーんと! 半額になってたサーモンの刺身だよ! 晩ご飯用意するね!」
マジ、仕事帰りには癒される。
これが親戚の可愛い女の子だったらもっと良いのだが、残念ながら相手はおっさんだ。名前を夕日さんと言う。
食卓を囲みながら、仕事の愚痴を言っていても、夕日さんはにこにこと笑って聞いてくれる。
「あ、愚痴ばかりですいません」
「ん? いや、良いよ。真昼君は頑張り屋さんだなぁ、って嬉しくなるから」
夕日さんは在宅ワーカーだ。正確には小説家志望で何かを書いているらしいが、俺には文学の話はさっぱり分からない。最初は夕日さんもあれこれ話していたが、俺が反応に困るのを見て、止めてくれた。
「真昼君。ご飯のお代わりいるかい?」
「あ、いるっす。ありがとう御座います」
夕日さんは、自分が余り稼げないから、と家事全般と食事に職場へのお弁当まで作ってくれる。それで家賃は折半で入れてくれるのだから、俺が食費やら何やらを多めに出しているが、それで文句がある訳でもない。
「夕日さんは仕事しないんですか?」
「あー。障害者手帳を持っているから、障害者雇用もハロワにあるんだけどね。私は身体が弱いから……」
夕日さんはよく風邪を引く。大体は高熱ではないけれど、食べたものを吐いてしまう事もよくある。
「フリーターでも良いじゃないですか。週に1回2回でも」
「うーん。障害者と言うと断られるし、なんとなく、ほら、違うでしょう?」
夕日さんの『違う』と言うのはなんとなく分かる。空気感と言うか、何を考えているのか分からない所がある。視線が固まっていると言うべきなのか、空気を読めないと言うべきなのか、何処か『違う』のだ。
そんな夕日さんが嫌いではないと思えるようになったのも、俺は慣れたからだと思うけど。
「……味噌汁美味しいっす」
「沢山あるから、どんどん食べてね」