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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
パーティーをクビになりそうでしんどい
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第77話 時間魔法《カットタイム》

「でやああっ」


 先手必勝。カインはグレゴリーに向かって長剣を振り下ろす。

 それをグレゴリーは光の剣で難なく受け止めた。


「おおっ」


 カインは長剣に火炎魔法(ファイヤ)を纏わせた。

 小爆発と共に、グレゴリーの剣がはじかれた。

 だが、グレゴリーは体制を崩しながらも光の剣を横に薙ぎ払う。


「でっ?」


 思いがけない反撃に、カインは慌てて飛び退がった。


「たわいもない。これでエール店長は我々のものです」


 グレゴリーが光の剣を振り下ろす。

 カインは肩を斬られ、どうっと音を立てて尻もちをついた。


「カイン!」

「カインさん!」


 ニナとサナギが叫ぶのが同時だった。

 二人はカインを助けようと駆け出した。


「エクセレント・ソード!」


 グレゴリーの手を離れた光の剣が、その周囲を猛烈なスピードで縦横無尽に旋回した。

 左右からグレゴリーに迫ったニナとサナギは、


「わあっ!?」


 二人は光の剣の動きが読めずに、我を忘れて逃げ惑う。


「お返しよっ」


 魔法の杖を振りかぶったジーンが、ニナの腹を全力で殴った。


「おごぇっ!!」


 ニナの上体がぐらりと傾く。

 サナギも、背後からトロイの体当たりを受け、両手を床についた。

 げえっと、ニナが苦しそうに呻く。その正面にジーンが立った。


「まさか、もう終わりなんじゃないでしょうね?」


 さらに、ニナの顔面に杖を叩きつけた。

 ニナは転倒するも、素早く身を起こし距離を取った。


「カインがどんくさいせいで……何をやってんだか……」


 ニナは腹をさすりながら、ぶつぶつと文句を言った。薄笑いを浮かべるジーンを睨む。

 トロイがずかずかとサナギに近づいた。

 胸ぐらを掴まれて立たされたサナギが、


「な……」


 と慌てて、後退した。


「間違えるなよ。お前の相手は、この俺だ」


 トロイとサナギが顔を見合わせた。目の前の敵から目を離したのは、サナギのミスだ。


「わ、わかってるわ」


 サナギは身なりを正した。


 グレゴリーが光の剣を鞘に収め、対峙するニナ達を見やった。

 三人のうちの一人でも負けを認めれば終わりなのだから、カインのあまりの頼りなさに、他の二人が脇目も振らず助けに来るのも無理からぬことだ。あの金髪ショートのメイドは、元冒険者であろう。

 冒険者レベルはジーンと同じくらいだと思われるため、勝ち負けは銃使い(ガンマスター)と魔導士の相性次第である。

 もう一人の素人臭いメイドは、その実力を買っているのはトロイだけだ。

 グレゴリーは、ようやく起き上がってきたカインに、


「どう考えても我々には負ける要素はない」


「…………」


 カインの表情は強張っていた。


「あなた方の勝ち筋があるなら、教えてもらえますか?」


「ちくしょうっ!」


 グレゴリーに悪態をつかれたカインは、大声を上げて自分を鼓舞する。


「火炎クロス斬りっ!」


 勢いそのまま、数少ない得意技を繰り出した。

 グレゴリーは光の剣を抜き合わせて、それを防いだ。刃と刃が交差して、大きな音が耳を打つ。


「甘いな」


 グレゴリーは、カインの首元を狙って剣を出す。

 カインが脚を滑らせながらも、なんとかそれを躱した。グレゴリーがぐっと前に出た。

 が、横から木製の長椅子が猛烈なスピードで飛んで来る。


「くっ」


 グレゴリーは咄嗟に身を引いた。

 長椅子は壁にぶつかり、木っ端微塵になった。

 それを見たグレゴリーが目を丸くする。


「カインさん! しっかりしてっ!」


 サナギがチャペルの長椅子を引っこ抜いては、次々とグレゴリーに向かって投げつける。

 グレゴリーは軽やかなステップで、これらを避けた。


「この脳筋野郎、舌の根も乾かないうちに……!」


 トロイが身体強化魔法(パワーブースト)を発動する。取り押さえたサナギを、両手で高々と差し上げた。

 サナギは逃れようと身をよじる。


「力勝負でも負けはしないっ!」


 トロイがサナギを投げ捨てる。


「うう……」


 サナギは、背中を床面にしたたかに打ちつけた。


「サナギ……!」


 意識するまいと思っていたニナだが、サナギの方に顔を向けた。


「どこを見てるの? 舐めてんじゃないわよっ」


 相対していたジーンが食ってかかると、目にも止まらぬ速さで、ニナはジーンの脚を狙って銃を連射した。

 だが、びしっびしっと鈍い音がして、水晶玉がそれを阻んだ。二つの水晶玉が、ジーンを守るように浮遊している。

 続けて、もう一発、ジーンの眉間をめがけて発砲した。

 水晶玉がまっすぐ糸を引くように飛び、銃弾を弾く。


魔法水晶(マジカルクリスタル)自動(オート)で全方向からの私への攻撃を防いでくれる」


 ドヤ顔で、ジーンが言った。


「まだよっ……!」


 ニナは身体をくるりと回転させて、ローリングソバットを放った。

 その先に移動した水晶玉がブロックしたので、


「ショッ!!」


 速射砲のように、ニナがミドルキックを連打した。

 ジーンはくすくすと笑っている。水晶玉は直線的な動きで、ニナの攻撃を全てはね返した。


「あっ……」


 よろめくニナの右脚には血が滲んでいた。


「無駄よ。脚がバラバラになっちゃうわよ」


 ジーンの脇で水晶玉が無機質に光る。


「くそっ……」


 ニナの顔は、やや青ざめていた。ジーンの魔法は、店長室の時のように発動準備時に潰せば良い。懐に入りさえすれば、こちらが断然有利だと思っていたが……。


「早く負けを認めた方が身のためよ。時間魔法(カットタイム)!」


 ジーンは大きく足を踏み出した。

 ニナの時間を止め、魔法の杖を打ち込んだ。一瞬ののち、ニナは顔を押さえ後ろに倒れた。


「な……ん」


 ニナは事態の把握に努めた。

 時間魔法? 私だけ? わずかな時間だが、本当に何もすることができなかった。


時間魔法カットタイム!」


 ジーンが再び唱える。

 ニナの思考が停止した。魔法の杖を胸のあたりに打ち込まれ、みしっとあばら骨が軋んだ。


時間魔法カットタイム!」


 戸惑うニナに、さらに魔法が発せられる。

 無理矢理に抵抗しようとして、大きく跳躍したが、時が止まった。

 平衡感覚が狂う。ニナはバランスを崩した。投擲された魔法の杖が、跳んでいたニナの脚に鋭く当たった。

 床に落下したニナは荒い息を吐いて、苦笑した。


「これは困った……サナギ、カインの事は頼んだわ……」

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