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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
パーティーをクビになりそうでしんどい
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第74話 カインとニナ

「おい、ニナ? ニナ!」


 本館二階、VIPルーム。

 カインが呼びかける。

 VIPルームにはグレゴリー達はおらず、高級ソファーで気持ち良さそうに眠っているニナだけだった。


「おい、ニナ! どうして、こんなところで寝てるんだ?」


 不可解に思うカインが、ニナを揺り起こした。


「え?」


 ニナが目をパチクリさせる。


「カイン……どうしたの?」


「はい?」


 カインの方が返答に困ってしまった。


「きゃっ!」


 ニナが眠そうな顔のまま、おもむろに起きあがろうとして、ソファーから転がり落ちる。

 なかなかに派手な転がり方で、テーブルの上に置いてあったティーセットをあらかた蹴り飛ばしてしまった。


「あっつ……!」


 ティーポットに入っていた紅茶がカインに飛び散り、カップが音を立てて床に転がる。


「も、申し訳ございません! すぐに雑巾を……!」


 ニナは平謝りしながら、よろよろと部屋を出て行こうとした。


「ちょっと待った、待った! 落ち着け、ニナ」


「…………」


 ニナの頭の上には、〝?〟が盛大に点滅していた。部屋の中をゆっくりと見回す。


「起きたか?」


 カインが言った。


「どうして、私がこんなところで寝てるの?」


「知らないよ」


「私はVIPルーム(ここ)に謝罪をしに来たはずなんだけど、グレゴリー様は?」


「俺が聞きたいんだが……」


 ニナは記憶を辿るように頭に手をやって、


「あっ! 私、魔法で眠らされたんだ」


「トロイにか?」


「店長室に案内しようとしたら……どういうこと?」


 ニナがむすっとして尋ねた。


「だから、俺に聞くなよ」


 カインはかすかに胸をなで下ろす。

 ニナを巻き込まないようにしてくれたことはありがたい。グレゴリー達は、〝副業〟に行ったに違いない。


「同じパーティーメンバーでしょうが」


 と、ニナは言ったところで、眠らされる直前に聞いたトロイの言葉を思い出した。


「まあ、そうだけど」


 カインはびくっと身体を硬直させる。


「いや、ニナが怒るのももっともだ。後で、俺から言っとくよ」


「そ、そうね」


 カインは嘘をついている。トロイは、「アイツならクビになったよ」と言っていた。〝クビ〟ということは、カインの意志でやめたのではないということだ。「いやあ、実は俺、パーティーをクビになっちゃってさあ」と照れ笑いでもしながら、言えば良いのに。

 昔からそうだ。

 弱いところを見せたがらないのだ。だが、たいていは、周りが気を使って知らないフリをしている場合が多い。


「とにかく、私は店長室に行ってくるわ」


 ニナは大きく頷いて、改めて部屋を出て行こうとした。


「だめだっ!」


 カインは、すぐさまその手をとった。


「お前はエール店長のところへ行っちゃいけない」


「え?」


 ニナはカインに疑いの目を向ける。


「どうして? 変なことを言わないで」


「どうしてって……お前も危険な目に会うからだ」


「お前()って、何?」


「は? そんなこと言ってないだろ」


 カインはうろたえた。ニナがカインの顔を覗き込む。


「カイン。何か隠してるわね」


「え? いや」


「もしかして、あなた達もエール店長を狙ってるの?」


「バカな……」


 クビになったとはいえ、さすがにそれをバラすわけにはいかない。


「いいから、たまには俺の言うことを黙って聞けよ!」


「だったら、変に格好つけたりしないで、全て話してくれたら良いでしょ!」


 論理もへったくれもないカインの言葉に、ニナの声も大きくなった。


「俺はお前のことを思って……」


「またそれ?」


「ニナ!」


 カインは頭を抱えた。

 なぜ、いつもこうなってしまうんだ。まるで子供のケンカだ。


「2年前のことだって--」


「今、その話をする?」


「ああ、するさ。俺はお前の足を引っ張ってしまうから、放っておいてくれたら良かったんだ」


「そうやって、自分の中だけで勝手に答えを出す」


「だから……! お前の未来のためにも、それが良いと思って」


「自分のことは自分で考えるわ」


「後になれば、分かってくれるはずだと」


「そんなこと、その時に言わなきゃ分かんないのよ!」


「…………!」


 カインはニナの頬を叩こうとして、ぐっと堪えた。

 カインを睨みつけたニナの肩が、小さく震えていた。


「もうやめましょう」


 ニナは背を向けて、部屋を出て行った。


「くそっ……!」


 カインは、すぐにその後を追った。

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