第65話 レッツらゴーやで! その①
ゴールドダンジョンスタート地点にある待合室。スタッフ達は不審な顔で、エクセレント・ペガサスのパーティーを遠巻きに見守っていた。
有名なパーティーがダンジョンにチャレンジするとあって、皆が注目するのも無理はないと言えるが、問題はそこではない。
問題は、パーティーメンバーの若い男剣士に、エール店長がくっついたまま離れないことだった。名物ロリ店長のエールは他のスタッフと同様に、ミニスカメイド姿のままだ。
そして、そのままダンジョンに同行すると言う。最近流行りの動画の撮影係というわけでもなく、全くの意味不明だった。武装したパーティーの中で、面白いほど浮いてしまっている。
周囲のスタッフ達は、
(エクセレント・ペガサスが怒り出すのではないか)
(わかってはいたが、この店長は本当にヤバいのではないか)
(転職を考えた方が良いのではないか)
と困惑していた。
そのような中、サナギ・キヨタキがたまらず、エールの元へと駆け寄った。大きなおっぱいが揺れる。
「店長」
サナギの唇は真一文字に結んだままだ。
エールはそれを無視して、カインの顔を指先で撫でた。
「店長!」
サナギは口は開かずに、つとめて大きな声を出した。
「何やねん、うるさいなあ!」
エールが一転、不機嫌そうな顔でサナギを睨みつける。
「あの……」
珍しく、サナギは気圧されてしまった。
「そんな言い方はないんじゃない? エール」
横からカインが口を出す。
「ええっ? なんでウチが怒られなあかんの」
「いや、怒ってるわけじゃなくて……エールは店長なんだから、この子の話をちゃんと聞いてあげなくちゃ」
そう言いながら、カインの視線が下がるのを見て、エールもサナギの爆乳を見た。
これやから男ってヤツは……と、大きく息を吐く。
「何や? スタッフがダンジョンに同行するのは禁止ですってか? ウチは店長やぞ」
「店長はさておき、お客さあにお危険が及ぶかおしれあせん。店長はさておき」
腹話術士のような喋り方だが、サナギはきっぱりと言い切った。
「大事な事やから、2回言いましたってか」
エールが、腰まで伸びた長い銀髪を手ぐしで直す。
「危険な事なんか何もあらへんがな。なあ、カイン」
「う、うん。まあ……」
これから自分達がやろうとしていることを思うと、カインの笑顔が引きつった。
エクセレント・ペガサスと呼ばれる所以ともなっている、白色の甲冑に身を包んだグレゴリーがサナギに微笑みかけた。
「心配無用ですよ。このエクセレント・ペガサスがいるのですから」
「あのう……本当によろしいんでしょうか?」
サナギはおずおずと尋ねた。
「たまには、こういう趣向も良いでしょう。面白いじゃないですか」
「そうそう。調整とはいえ、慣れってのが一番怖いからね」
グレゴリーの隣りで、女魔導士のジーンがにっこり微笑んだ。
「そうですか……」
一流のパーティーにそう言われてしまっては、サナギの出る幕はない。
おもむろにグミの袋を開けるエールに、サナギが気づく。
「ダンジョン内は原則飲食禁止です」
「ほいほい」
エールは袋を逆さにして、無造作にグミを口に流し込む。
「ニナさんはこの事を知ってるんですか?」
「ニナ……?」
むぐむぐと咀嚼を続けるエールから、サナギは視線を外さない。
ごくんと飲み込んだ。
「ニナなら、さっき会ったけど」
「なんて言われあした?」
「何も」
「うそです。そんなわけありあせん」
「やけに突っかかってくるやないか……そうか、サナギもウチとカインのラブラブぶりに妬いとるんやな? すまんけど、お前らみたいなモテへん女の気持ちがウチにはわからへんのや。まあ、これやるから元気出せ」
エールはグミを一つつまんで、サナギの口に押し込んだ。
「…………」
サナギは固い表情でグミを食べる。
「さあ、お待たせ! 楽しい楽しいダンジョンスへ、レッツらゴーやで!」
ゴールドダンジョンへと向かうエクセレント・ペガサスのパーティーとエールを見送って、サナギはつぶやいた。
「何だか、嫌な予感しかしない……」