第52話 銃使いニナVS武闘家ラメエル
銃を構えたニナと対峙するラメエルは真剣な表情をしていた。騒ぎを聞きつけて駆けつけたネフィリムはその姿を見て、お互いに駆け出しの冒険者だった頃を思い出した。
ラメエルの体型は今より、一回りも二回りもスマートだった。ぶくぶく太っていくにつれ、不思議なことにその腕は冴えわたり、その確固たる地位を築いていった。
もともとの人柄の良さも相まって、周りから敵はいなくなり、子供達からは憧れの的となる。
ラメエルが人知れず、
「最近、真剣に戦うことがなくなってきた」
と、嘆いているのをネフィリムは知っていた。
「ラメエル、何があった!?」
呼びかけるも、ラメエルは微動だにしない。
その視線の先には、両手に銃を構えた金髪ショートのミニスカメイドがいる。
ネフィリムは苦笑した。
「ニナちゃん、一人?」
「いや」
ラメエルは、そこで初めてネフィリムを見た。
「シェミハザはどこに行った? アイツ、全然電話にでねえし」
「屋上。サナギちゃんを連れてヘリで移動するって。そこにエール店長もいる」
ラメエルはそっけなく答える。
「わかった。俺は屋上に行くわ」
ネフィリムは、ニナに対して半歩踏み出したラメエルにそう言った。
ニナがネフィリムをちらっと見る。
「ちょっと待って……」
「ニナちゃん、頑張ってね!」
「えっ?」
「もし、ラメエルに勝てたら、その時は俺が優しく相手をしてあげるよ」
ネフィリムは、ニナに向かって投げキッスをした。
ニナの胸が悪くなっている間に、ネフィリムは身を翻して部屋を出て行ってしまった。
「ニナさん」
ラメエルが言った。
ニナがキッとラメエルに視線を戻した。
「僕は本当はシェミハザを止める気でいたんだ。彼の信念には理解できる部分もあるけど、やっていることは犯罪だからね。……でも、今はもうどうでもいい。ニナさん、君からすばらしい戦闘センスを感じる。そのセンスは--」
ラメエルの眉間を狙って弾丸が放たれた。
びっくりしてこれを避け、興奮して叫ぶ。
「ひどいなっ!!」
「どうせ、当たんないんでしょ?」
そう答えるニナは、落ち着き払ったものである。
「じゃあ、いくよ」
ラメエルが中段構えのまま、つうっと滑るように自然と間合いを詰めてきた。
ニナははっとして、大きく後ろに飛ぶ。
なのに、二人の間合いはなくなった。
「くっ……」
焦ったニナは、ラメエルに向かって銃を連射する。
「ひょおおおっ!!」
ラメエルの体が天井まで飛び上がる。
「火龍爆殺脚!!」
ニナは咄嗟に物理防御魔法を使ってガードする。しかし、ガードは弾かれ、ラメエルの右脚が激しく強打した。
「あっ」
さらにラメエルは、よろめくニナの腕関節を極めると、そのまま壁に叩きつける。
ニナは気を失いかけた。
「まずい……」
なんとか間合いをとり、ニナはすばやく回復魔法を使った。
息もつかせず、ラメエルが、
「あたあっ!!」
ニナに正拳を突き込んでくる。
銃を失ったニナは、これに横蹴りを合わせた。
骨と骨がきしむ音がして、二人は一度はなれはしたが、またも互いに打って出た。
「ショッ!!」
ニナがハイキックを繰り出すも、ラメエルはそれを受け止めて動きを封じた。
「ほわっちゃあっ!!」
ラメエルのワンインチパンチが炸裂する!
ニナの胸のあたりで小爆発のような衝撃が起こり、後方に吹っ飛ばされた。
肋骨を数本へし折られ、ニナは倒れ込む。
「ヒ、回復魔法……」
ニナも接近戦が得意な銃使いとして、少しは有名だったつもりでいたが、体術勝負では話にならない。銃も完全に読まれてしまっている。だが……
まだ、試したいことがある。
立ち上がり、走り出したニナはデザートイーグルを拾い上げ、ラメエルに向けて発射する。
怯まず突進してくるラメエルに、さらに発射。ラメエルが大きく跳躍する。
「ここよ! 我が美しき命のために奇跡を見せよっ! 〝夏走〟っ!! 」
天語を唱えたニナは、空中を全速力で駆けて行き、そのままラメエルの頭上をとった。
初めての経験に、ラメエルが唖然とする。
--まだ足りない。
ラメエルに迫ったニナは、
「見よう見まねで……火龍爆殺脚っ!!」
気炎を上げ、右脚で蹴り込む。
「うわ……」
ラメエルが合わせた拳ごと、その側頭部をブチ抜いた!
ラメエルの小太りの体がバランスを失って落下、仰向けに倒れ込んだ。
膝を立てて再び立ち上がろうとするも、コロンと床に転がり、
「すばらしい」
親指を立てて見せ、大の字になって虚脱した。
ハアハアと荒い息をしながら、ニナは、
「ど、どうも……」
笑顔さえ見せているラメエルに頭を下げて、屋上へと急いだ。