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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
接客業が向いてなくてしんどい
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第49話 シェミハザの研究室

「信じられん。俺たち三人がかりでやっとだぜ」


「やはり()()ではないね。何か秘密がある」


「シャトー☆シロの連中は、その秘密とやらを知ってるんだろうか?」


「さあ」


「ま、それも含めて良い女だぜ」


「ネフィリムさんは自分の仕事をしてくださいよ」


「警備たって、誰が来るって言うんだよ? 警察なんかまだまだ来やしないぜ?」


「シャトー☆シロの連中とか」


「はあ?」


「さっき言ってたように、シャトー☆シロの連中がサナギの秘密を知ってたらね」


「ふん、シェミハザよ。そんな事言ってお前、サナギちゃんにスケベなことをする気だろ?」


「ネフィリムさん。冗談もほどほどにしないと、怒りますよ?」


「へえ、おもしろい」


「…………」


「……はいはい、わかったよ」


「ラメエルさんもアラキバさんも、ちゃんと自分達の仕事をしてるんだから」


「あっ、そういえばアラキバのやつが軍用ヘリを召喚してたぞ」


「ヘリ? 自走砲じゃなくて?」


「あのバカ、めちゃくちゃ目立ってる。騒ぎになるぞ」


「まあ、そのあたりは自由に出し入れができるから問題ないんじゃないかな」


「そうかあ?」


「ああ……サナギが目覚める。ネフィリムさんは仕事に戻って」


「変なことすんじゃねえぞ」


「それは、時と場合によるでしょ?」


「お前……」


「違う違う。必要があれば、ね」


「ちっ、もういい。じゃあな」


 サナギが目を覚ますと、枕元にバラの花束が置いてあった。

 だが、その艶やかな甘い香りの代わりに強烈な薬品の匂いが鼻をついた。手を動かそうとするも力が上手く入らない。さらに、鋼鉄製の手錠のようなもので固定されていた。足首や胴回りも同様だった。


 なんとか首を動かすと、自分が吸入器を装着していることが分かる。

 

 サナギは諦めて、じっとバラの花を見つめていると、


「サナギ」


 シェミハザの声がした。


「…………」


 サナギは黙っていた。


「ごめん」

 

 シェミハザが言った。

 本当に申し訳なさそうな声だった。


「おはようござい()す。私をどうする気ですか?」

 

 サナギは、いつも通り口を閉じたまま喋った。


「バラの花は好きかい?」

 

 シェミハザが尋ねた。


「こんなふうに人からいただくのは初めてなので、緊張し()す」


「そう? ずいぶん落ち着いてるように見えるけど」


「身体が動き()せんので」


「うん。吸入麻酔薬を使わせてもらってる」

 

 サナギは怒りを剥き出しにした。

 上体を起こそうとして、身体を左右に揺さぶる。


「羽つきスライムを返して」


「いいよ。サナギが秘密にしていることを教えてくれたらね」


「それを配信するんですか?」


「ああ……それは考えてなかったな」

 

 シェミハザはきらきらと目を輝かせた。


「そんなの言えるわけないでしょ」


「バズる?」


「おそらく」


「サナギも有名人になっちゃうか」


「その時は覚悟してください。あなた()


「むむ……」


「い()離してくれたらす()てなかったことにし()す」


「うん」

 

 シェミハザはにやりと笑ってサナギの手を握った。


「なんですか?」


「俺は離したくない」

 

 そう言って、サナギの手の甲にキスをした。

 サナギは手を引こうとしたが、叶わなかった。


「や()てください」

 

 シェミハザを睨む。

 何やら断続的な機械音がするだけの病院のようなスペースで、心臓の鼓動が響き渡ってしまうのではないかと心配した。


「嫌だね」


 シェミハザはいつも通りだ。


「私の気()ちはどうなるんですか?」


 サナギは涙声で言い、シェミハザは溜め息を吐いた。


「羽つきスライムも元気がなくてね。サナギの元に帰りたいのかな」


「お母さんの所でしょう」

 

 サナギはシェミハザを見た。

 シェミハザは何も答えずに、バラの花束を手にする。


「バラの花言葉は〝情熱〟」


「…………」


「愛情。他には、あなたを愛しています。羽つきスライムは君といる時にしか、あの甘い香りを出さないようだ」


「…………」


 シェミハザは花束に顔を近づけて、ゆっくりと息を吸い込んだ。


「このバラの花だって同じさ。サナギといると美しさが一層引き立つ」


 シェミハザは新魔法の開発をしていると聞いたが、それと羽つきスライムが何か関係あるのだろうか。サナギはようやく気を取り直し、


「羽つきスライムに特異な力があるというのは考えちがいです。仮にそうだとして、あなたはそれをどうしようと言うんですか?」


 サナギの問いに、シェミハザは薄く笑った。


「前に言ったろう。世界平和」

 

 シェミハザがそう言うと、サナギは目を細めて天井を見た。


「俺の話を聞いてくれ」

 

 シェミハザは元あったように、花束をサナギの枕元に置いた。


「あれほど広範囲の人々とモンスターを眠らせる力。本当に眠らせるだけだ。何の害もない。これを戦争状態の国と国に使えば、面白いと思わないか?」


「お()しろい……?」


「そう。誰も成し得なかったものだ」


 シェミハザは頷いた。

 サナギは考える。

 シェミハザはシスに似たところがあるのかもしれない。シスと同じように才気に溢れている。だが、それは勘違いだった。


 肌触りの良い言葉で人を惹きつける。しかしながら、その興味対象は外には向いておらず、自分自身に向けられている。

 才気ある者のプライドが、シェミハザの場合は優しさとなっていた。

 シスはそのようなことはなかった。


「そのためには放火や誘拐をして良いと?」


「好きでやったわけじゃない。必要だったからだ。世界平和への道が簡単なはずがない」

 

 サナギは、なんとか手を動かそうとするも、やはり動かなかった。

 少しでもシェミハザに惹かれた自分に対して怒っていた。

 いや、シスがシェミハザと引き合わせたのか。とても心が痛んだ。

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