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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
上司がクソビッ◯でしんどい
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第4話 ぼっちでも大丈夫

 たくさんの人が行き交うメインロビー。そこから続く大階段の昇り口で、ニナは足を止めた。

 大階段の中腹あたりに白を基調とした、とてもきらびやかで美しい軍服を着た男が座っていたためである。


 ニナは初めて見る客に静かに近づき、声をかけた。


「いらっしゃいませ。お一人様でございますか?」


「はい。そうですが」

 

 男は顔を上げた。


 細い眉に切長の金眼、唇は紅を引いたように赤い。三十歳前後と思われるその男は、匂い立つような気品の中に、少し危険な野性味を感じさせた。わかりやすく言うと--


(うっほ……! 超絶イケメン!! これは、エール店長もほっとかないだろうなあ。ていうか、顔が整い過ぎてない? ちょっとホストっぽいか……私はパスで)


 ということである。


 ニナは、そのような心の内は微塵も感じさせない営業スマイルで、


「あちらのフロントにて、ご登録手続きはもうお済みでしょうか?」


「いえ、まだ」


「お客様、当店へのお越しは初めてでいらっしゃいますか?」


「はい」


「失礼ですが、当店の会員証はお持ちでいらっしゃいますか?」


 常に微笑を絶やさない男は、無駄のない動きで会員証を差し出した。


(……ゴールド会員か。変な対応しなくて良かったー。さすがは私)


「失礼しました、デューク様。本日はシャトー・シロへお越しいただき誠にありがとうございます」

 

 ニナは会員証を確認し、丁重にそれを返却した。


「デューク様、恐れ入りますが、当店のトライアルダンジョンへは四名様でのご参加が規則となっております」


「なぜですか?」

 

 一瞬、ニナの表情が固くなる。


「なぜと言われましても、規則ですので……」


「要は、その四名という数字に疑問を持ったことがないと? 確かにサッカーなども11人1チームで対戦することが当たり前になっていて、そこに疑問を呈する者はありません」


「……サッカーのことはよく分かりませんが、長年の試行錯誤の末、四人パーティーが一番バランスが良いという結論に達したのではないでしょうか」


「え、そうなんですか?」


「いや、それは私の感想でして、その……」

 

 愛想笑いでしのごうとするが、デュークは視線をはずさない。ニナは頭を下げる。


「お客様に対して適当なことを言ってしまい、申し訳ございません」


「いえ、あなたなら明確な答えを持っていそうな気がしましたので。店の規則には従いますよ」


「ありがとうございます。まずはフロントにて登録手続きをお願いいたします」


「わかりました」


「デューク様と同様に、お一人でお越しになられたお客様が四名揃われましたら、お呼び出しをさせていただきますので」


「要は、知らない人達と四人パーティーを組むんですね」


「さようでございます」


「大丈夫かな。私、少々人が苦手で……」


「心配ございません。いつもお一人で当店にお越しいただく常連の皆さまは、マナーの良い方ばかりですので」


「そうですか。安心しました」


 デュークの紅い唇から発せられる言葉は、いかにも丁寧で優しげなものだったが、何か不思議な違和感を覚えた。


「いやしかし、このような商売の形態が成り立つとは、昔は考えられませんでしたが」

 

 デュークはたくさんの客で賑わう店内を見渡して言った。


「ええ。市街地から徒歩20分、冒険初心者から上級者の方まで、幅広くチャレンジしていただける人工のダンジョン施設でございます」


 ニナが説明を続ける。


「オープン当初は世界的にも珍しく、また、人の生活圏内にモンスターが入ってくるということで反対運動が少なくありませんでした」


「そうでしょう」


「私たちシャトー☆シロも、他店様と同じく安全には万全を期しておりますので、今やトライアルダンジョン自体が市民権を得ることができました」


「それで、万が一の時のためにスタッフも武装しているんですね」


「?」


 自分は、どこからどう見てもただのミニスカメイドのはずだ。

 ニナは束の間、何のことを言ってるのか分からなかったが、


「ええ。裏方のスタッフには何人かそういう者もいます。ですが、保安のメインは機械的な管理です」


「それは心強い」

 

 デュークはそしらぬ顔でそう言った。


「ところで、こちらでは色いろな付加サービスもあるんですね。武器のレンタルもできるとか」


「はい。各種武器、取り揃えております。デューク様はゴールド会員でいらっしゃいますので、全て無料でご利用いただけますが、何かお求めの品がございますか?」


「鬼の金棒」

 

 デュークは、接客業務に徹するミニスカメイドをじっと見つめて答えた。


「鬼の金棒? で、ございますか……。恐れ入りますが、該当する武器は取り扱ってなかったと存じます」


「では、トライアルダンジョン内の宝箱の中にあったりしますか?」


「申し訳ございません。宝箱の中身に関してはお答えすることができません。お客様ご自身の目でお確かめください」

 

 ニナはにっこりと微笑んだ。


 トライアルダンジョン最大のウリの一つである宝箱の中身は、エール店長が決めているので、ニナですら本当によく知らなかった。

 ただ、あの守銭奴の店長がすることなので、


(シャトー☆シロの宝箱には、たいしたものは入っていない)

 

 と、いうような評判は嫌でも耳に入ってきていた。


 デュークがすらりと立ち上がる。


「なるほど。では、そうさせてもらいましょう。ありがとう、笑顔の素敵なお嬢さん」

 

 妖しい魅力をその場に残し、階段を下りていった。


「いってらっしゃいませ」

 

 ニナは深々とお辞儀をして、これを見送ると、軽やかな足取りで石段を駆け上がった。

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