第44話 ダンジョンボス戦 その①
24回目ともなると致し方ないのかもしれないが、ボス戦だというのにパーティーから緊張感はほぼ感じられなかった。
そもそも、このようなリピーターを想定していないし、シャトー☆シロの名誉のために言うと、ひと月毎にコースやトラップ、登場モンスターをマイナーチェンジはしている。
「順番どうする?」
「また、ジャンケンする?」
武闘家のラメエルがぴょんぴょん飛び跳ねた。
巨大なハンマーを掲げた戦士ネフィリムの脇の下から、召喚士アラキバが顔を覗かせて、
「昨日と一緒で良いよ」
「そうするか」
「一番は誰だっけ?」
「俺」
ネフィリムが手を上げた。
プラチナムダンジョンも大詰めを迎え、最後はボスモンスターとの三連戦となる。初チャレンジ時からそうだったわけではないだろうが、一対一で戦うようだ。
サナギは守護神を祀る祭壇を模した、大広間を撮影していた。
シャトー☆シロのスタッフの技術はものすごい。円柱一つ一つに立派な装飾が施されている。いや、さすがにこれは外注だろうか。
そんなふうに、サナギがとりとめのないことを考えていると、
「サナギちゃん、カッコよく撮ってね」
ネフィリムが力こぶを作ってみせた。
ボス戦に集中するべきだというのに、意識をサナギに向けたままだ。このスケベ戦士は、道中ずっとこんな調子だった。
ネフィリムの頭上に影が差し、ごうごうと突風が巻き起こる。紫色の羽毛に包まれた巨大な翼が壮観だ。
レベル35のキラーバードがあらわれた!
「五分だ。今日は五分以内に倒すぜ!」
ネフィリムが大声を上げた。
天井を覆いつくさんほどの大きな翼を羽ばたかせ、キラーバードの赤いくちばしがネフィリムを強襲した。なんとかこれを回避すると、背後にあった円柱が破壊された。
サナギには昨日のバトルの内容と結果は分からない。だが、どちらかにとってはリベンジ戦という意味合いもあるはずだ。
まだ、戦いは始まったばかりだが、キラーバードの目はもう血走ってるし、身体が震えているように見える。一方、ネフィリムはできれば一撃、短時間で終わらせたいと思っているようだ。
キラーバードは口から白い霧のようなものを吐き出した。
「何だよ、これ!?」
姿は見えずとも、霧の中からネフィリムの声だけが聞こえた。
「グアッグァッ」
キラーバードが満足そうに鳴いた。勝利を確信した、という思いがあらわれている。
「さっさとかかってこいよ! チキン野郎!」
ネフィリムが荒々しく言い放つ。
怒ったキラーバードが矢のように舞い降りて攻撃をする度に、ネフィリムの鎧の破片が弾け飛んできた。
白い霧に覆われて、中の様子が分からない。
このとき、空中で巨大な戦鎚を振りかぶった全裸のネフィリムが、キラーバードの背後を取った。
「シャイニング・ハンマー!!」
戦鎚がキラーバードの脳天へ直撃した。
「グオォッ!!」
叫び声を上げ、キラーバードが凄まじい音を立てて石造りの床に墜落した。
『キラーバードを退場させるから、ちょっと待ってもらって!』
サナギのインカムにギゾーの声がつげる。
「皆さん、少しお時間をいただけあすか?」
サナギが前に出ると、パトロール班の手によってキラーバードが運び出された。
「グアォォッ?」
キラーバードの不満そうな声がくちばしの端から漏れる。まだやれる、という思いがあらわれていた。
だが、もぬけの殻となった鎧に気を取られ、背後に回られた時点で勝敗は決していたと言える。
「五分かかってないだろ?」
戦鎚をかついだ全裸のネフィリムが、のっしのっしと歩いてくる。
「きゃああああっ」
手の平で顔を覆ったサナギが叫んだ。