第43話 ガーデンパーティー
シェミハザ達がプラチナムダンジョンにチャレンジしている頃、アーキラブ国王の住むクラッカ宮殿にて、キワーノ皇太子殿下の快気祝いのためのガーデンパーティーが開催されていた。
ダークグレーのスーツに身を包んだエールとニナは、いつになくかしこまって指定された席に座っていた。
「何をイチャイチャしとるんやら……」
エールは出された紅茶に口をつけた。
「は?」
ニナが怪訝な表情を浮かべる。
「いや、こっちの話や。サナギはどうしたもんやろか」
「そうですね」
ニナが頷く。
「本人が嫌だと言ってる以上、今の状態はお互いのために良くないと思います」
「仕事なんて慣れるしかないと思うけどな」
「はい」
「まあ、考えとくわ」
エールはそこで言葉を切り、キワーノ王子を囲む人だかりを見た。
「一言だけでも挨拶できへんかな?」
「うーん……。招待してもらっただけでも良しとしないと」
ニナは、キワーノ王子が快復して本当に良かったと思う。それ以上は私たちには望めない、とも。
「そうか」
エールが気のない返事をすると、ニナは彫刻が飾られた泉水を眺めた。
--キワーノが死んじゃったら、あんたのせいよっ!!
嗚咽するマリネが鮮明に思い出された。その前後の救助作業のことは、忙しすぎて記憶から抜けている。
マリネはどうしているだろうか。
キワーノ王子との身分の差は如何ともしがたい。
愛し合っていた二人は、亡命を計画していた。ただ、あのような出来事が起こってしまったこともあり、それが叶うことはなかった。
その後、二人の仲がどうなったのか、ニナは知らなかった。
「失礼します」
給仕係の女の子が声をかけてきた。
ニナはピンク髪の彼女をしばらく見つめた。
「……? 何でしょう?」
ニナはハッとして、
「マリネさん!? あなた、どうして」
「別室にご案内いたします。私について来てもらえますか?」
エールとニナは、中庭に隣接した図書館の一室に通された。
それからしばらくして、身なりの良い青年、キワーノ王子が部屋のドアを開けて入ってきた。
エールとニナがぎこちなく頭を下げる。
「このような場所でなんですが、お二人に伝えておきたいことがありまして」
キワーノ王子はそう言ってマリネを見た。
ドアの側で控えていたマリネが、にっこりと笑う。
ニナはコホンと咳払いをして、
「何でしょう?」
と、尋ねた。
「二人で話し合った結果、亡命の件は一時見合わせよう、ということになりました」
キワーノ王子の言葉に合わせて、マリネが頷いた。
「以前とは、状況が少し変わってきまして……」
つまりは、キワーノ王子の親族にマリネが認められたということだ。と言っても、覚えが良くなったというだけのレベルらしいが。
給仕として仕えることは許された。
中に入ることは到底許されないのに、毎日献身的に病院へと足を運ぶマリネの姿が、関係各所から親族に伝わったのだった。
身分の差をものともしない愛の力。行動力。持続力。信頼関係。若さ。
そこから、不可能を可能にするのではないかという希望が生まれたと、そういうことだった。
「それでもどうにもならなければ、またその時にはお願いします」
キワーノ王子が言った。
「分かった。王子の頼みや、七掛けで安くしとくで」
エールは芝居っけたっぷりに揉み手をしてみせた。
ニナは二人の白さに目を射られるようだった。




