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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
接客業が向いてなくてしんどい
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第42話 プラチナムダンジョン

「じゃあ、今日一日よろしくお願いします」

 

 シェミハザ以下、パーティーメンバーの視線がサナギに集まる。


 サナギ達は、プラチナムダンジョンのスタート地点に立っていた。バックヤードに向かう途中で、今度はシェミハザに捕まってしまったのである。

 そのまま、予定通りに撮影係としてプラチナムダンジョンに同行することになった。


 青い髪のシェミハザの年齢は25、6歳で、パーティー内で最年少ながらリーダー的存在だった。

 ひょろっとした体型は少し頼りない印象を与えるが、イケメンだった。眼光鋭い目で瞬きもせず、サナギを見つめている。


『サナギちゃん!』


 ヘッドドレスに付いたインカムからギゾーの声がした。


『今日はサナギちゃんが撮影係なの?』


 ギゾーの問いかけに、サナギは戸惑いを顔に浮かべながら通話ボタンを押した。


「そうです」


『それでね、羽つきスライムが行方不明になっちゃっててさ! 困ってんだよ!』


 サナギはためらった。今、正直に話してしまっても良いのだろうか。


『いなくなっちゃうなんて、あり得ないんだけどねえ!』


「…………」


『生まれたよね、昨日! あれは夢じゃないよね!? ワシ、まだボケてないよね!?』


「そうですね」


 サナギが答えると、ギゾーは、「困ったなー」と言いながら通話を切った。本当に困った。胸が痛い。

 サナギはカメラを構えたまま、天を仰いだ。地下ダンジョンだけれども。


 シェミハザの三人の仲間のうちの一人、召喚士のアラキバがもう戦闘を始めていた。黒のフード付きマントを身にまとい、見たことのない魔法を連発している。アラキバは三度の飯より戦闘が好きだそうだ。


 シェミハザが新たに開発したという兵器召喚術を得意とし、腕は申し分ないということだ。

 ただ、少し戦闘狂のきらいはあるかも知れない。


 サナギは、視線を動かして戦闘の様子を伺った。

 アラキバが魔法陣からガトリング砲を召喚した。


「……ポイントは、いかに無駄なく魔力効率を高めるかということだ。それは敵の種類によって、選択できる技術や手法が変わる。よく選択される手法は、体系化された領域CとDだが……」


 アラキバは、レベル30の食人植物をなぎ倒しながら、よく分からないことを呪文のように呟いている。


 しぶとい食人植物が伸ばしたツルが、アラキバの足に巻きつく。


「ほあったあ!」

 

 そのツルを小太りの武闘家ラメエルが蹴り上げた。


 アラキバは、さも当然というふうに礼も言わない。ラメエルの参戦により、5体の食人植物はあっという間に倒されてしまった。

 ラメエルの武術はというと、その外見からは想像もつかないほど、美麗なものだった。


 そして、頭髪をコーンロウにした大柄な戦士ネフィリムは、サナギにちょっかいをかけていた。


「ねえ、サナギちゃんは彼氏とかいるの? 俺、おっぱいの大きい子が好きなんだよねー」


「そうですか」


 よくもまあ、これほど欲望丸出しの顔ができるものだと、サナギも露骨に嫌そうな顔をしてみせた。


 シェミハザがネフィリムの肩を手でおさえる。


「待った待った。サナギには撮影を頼んでるんだから。ネフィリムさんもちゃんと仕事をしてよ」


「ええっ? いいじゃん。少しくらい」


「仕事料を減らしますよ」


「ちぇっ。サナギちゃん、また後でね」


「……」


 ネフィリムを睨みながら、サナギは何だかよく分からないパーティーだな、と思った。

 四人の仲は良さそうだが、雇用関係がある。


「サナギ」


 シェミハザが声をかけた。

 胸を手で隠しながら、サナギはシェミハザから少し離れた。


「気を悪くしないでくれ。俺は戦闘は苦手だけど、サナギのことはちゃんと守るから。あっ、モンスターからって意味ね」


「いえ、お客さ()はダンジョンに集中していただいて……」


 名前を呼び捨てにされるのは、これで二度目だ。


 シェミハザは何事かをさとって、サナギの顔を見た。


「羽つきスライムも撮影させてね」


「そ、それは」


「ええっ、ダメなの?」


「……わかり()した」

 

 サナギはじりじりと後退りをするも、すぐに諦めた。


 シェミハザ達がチャレンジしているのはプラチナムダンジョンである。シャトー☆シロに三つあるダンジョンの中で、最上位のダンジョンだった。〝超生物の保安の確保及び取引の適正化に関する法律〟で規定されるところの上限レベル35までのモンスターが登場する。

 踏破距離、優れた設備に演出、世界的にも屈指の人工ダンジョンと言えた。


 先を歩いていたシェミハザが、


「昨日はごめん。突然、寝ちゃって」


「いえ、そんな」


 サナギはカメラを操作しながら答えた。


「あんなこと本当に初めてだよ。疲れてたのかなあ」


「そうか()しれ()せん。ただ、少し気になることがあって」


「えっ?」


 サナギは監視カメラに背を向けて、こっそりと胸元から羽つきスライムを取り出す。


「あの時、この子からあ()い香りがすると言って()したよね?」


「ああ、バラのような甘い香り」


「それが睡()んを誘発するんじゃないかと」


「睡眠を?」


 シェミハザは羽つきスライムの匂いを嗅ごうとして、すぐにやめた。


「今も少しするね」


「なぜだか、私は匂わないんです」


 クレームの一つでも受けるかと思ったが、シェミハザの反応は違った。


「羽つきスライムにそんな力が?」


「わかり()せん」


「いいね。すごく面白い」

 

 シェミハザは興奮しているようだった。

 戸惑うサナギの顔を見て、シェミハザは優しく笑った。


「そういえば、昨日、フェネクスの羽根をゲットした人が初めて出たそうだね。取引銀行の頭取だとか」


「たしか、そうでした」


「出来レースでしょ? そもそも冒険者なの? あのおじさん」


「えー……、そんなことは」


 サナギが言い淀む。


「まあ、良いさ。サナギのおかげでいろいろ楽しくなりそうだよ」


 とにかく、これ以上フェネクスの羽根のことを突っ込まれるのは困る。


 パーティーは通算24回目のプレイということもあり、自信満々で進んでいく。しかも、リーダーであるシェミハザは戦闘に参加していない。舐めプということではなく、本当に戦いが苦手で役に立たないからということだ。


 スムーズにモンスターを倒して進み、宝箱を開ける。

 サナギは、何かの間違いでフェネクスの羽根が入っていないかと祈ったが、そんなはずはなかった。


 宝箱の中に入っていたのは、シャトー☆シロの看板人形、〝勇者ポールくん〟の特大ぬいぐるみだった。〝勇者ポールくん〟は、ちょうどくるみ割り人形のようなデザインで、目つきが悪く、客からの評判はすこぶる悪かった。


「…………」


 シェミハザ達は困惑した。

 かつてないほどの重苦しい空気が流れる。サナギはその場から逃げ出したくなった。


「サナギ、これいるかい?」


 シェミハザが尋ねた。


「えっ、良いんですか……?」


「もちろん。プレゼントするよ」


 言うまでもなく、サナギだっていらない。

 だが、そう答えるしかなかった。


「裏に置いて来()す」


 特大ぬいぐるみは邪魔になるので、従業員用通話の脇に置いてきた。

 急いで、シェミハザ達の元へと戻ってくる。


 ぐにゃりと何かを踏んだ感触がしたので、サナギは足元を見た。


「ひゃあっ!」


 今朝方に見たのと同じ白い蛇だった。ティアラが飼っているという、たしか名前はブラン。どうして、こんなところにまで……。


「アラキバさん、また無茶してる」

 

 シェミハザの声に、サナギはカメラを慌てて構え直した。重い地響きが伝わってきた。


 見ると、アラキバが対戦車自走砲を召喚したところだった。


「これでも戦場にふさわしいサイズの兵器を召喚している」

 

 アラキバはにやりと笑う。


「注目すべきはAの手法。それぞれ約3倍、約2倍駆逐効率が上がったと、実験で報告されている」


 アラキバは大砲を発射。

 レベル30のジャンボスケルトンに命中し、炸裂する。

 シェミハザはサナギを抱くようにして、衝撃から守った。


「大丈夫?」

 

 シェミハザとサナギは顔を見合わせた。


「アラキバさん、動画の撮影もしてるんだから! 忘れないでよ!」

 

 シェミハザは大声を出してアラキバの元へ駆け寄る。しばらくしてから、サナギも後を追った。

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