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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
接客業が向いてなくてしんどい
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第37話 人気動画配信者 その①

「これ、本当に当たりはあるんですか?」


 サナギがインフォメーションカウンターに行くと、青い髪の若い男性客に尋ねられた。

 スタイリッシュな軽装備に中性的な顔、一見すると冒険者らしくない。その口調から、とても利発そうな印象を受けた。サナギの苦手なタイプの客である。


「すみ()せん」

 

 サナギは反射的に頭を下げる。


「えっ、当たりなしの詐欺まがいの商売をしてると認めるの?」

 

 青髪の男がそう言うと、彼とはうって変わって、強そうな仲間達がサナギに詰め寄った。

 大柄な戦士風の男に、好戦的な目をした黒装束の男。さらに、その後ろでおどけて見せる小太りの男。


 サナギが驚き、何のことか分からずにいると、


「ちょっと! あんまり適当なことを言ったらお客様が困惑するでしょうが」


 別の客の対応をしていたインフォメーションカウンターのスタッフに咎められた。


「すみ()せんでした」

 

 サナギは改めて謝罪する。


「フェネクスの羽根のことですよ」


 青髪の男は、困り顔で頭を掻いた。


「俺たち、この一週間でプラチナムダンジョンを23回、宝箱を合計345個空けてるんですが、出ないんですよ」


「フェネクスの羽根ですか……」


 サナギの心臓が大きく、一つ波打つ。


「貴重なものだからというのは分かるけど、それにしても出なさ過ぎなんじゃないかな?」


「……」


 フェネクスの城になんか行かなければ、仲間達は死なずに済んだのに……。

 サナギは胸が詰まり、言葉が出てこなくなった。


「どうかした?」


 青髪の男がサナギの顔を覗き込んだ。サナギは、眼鏡の奥の青い眼を見られまいと、咄嗟に顔を伏せる。

 男は妙にフレンドリーで、自信に満ち溢れていた。


「いえ……」


 サナギは深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。

 シャトー☆シロでは、営業再開時から〝フェネクスの羽根イベント〟が催されていた。開催期間中、ウルトラレアアイテムであるフェネクスの羽根が、プラチナムダンジョン内の宝箱にランダムで一枚入っているというものだ。


「当たりが入ってないということはないと思い()すが……」


 サナギは、メインロビーの中央に設営されたイベントブースを見やった。フェネクスの羽根が5枚、ガラスのケースに入れられて厳重に保管されている。


(そういえば、あの5枚で全てのはずだから、当たりの宝箱には引換え券でも入っているのだろうか……)


「ひょっとして、フェネクスの羽根を手に入れる()で続けるつ()りですか?」


「君、変わった喋り方をするね。良いね」


「え?」


「個性的で面白いってこと」


「はあ」


「ほんとだよ」


 好きでやってるわけではないので、サナギは反応に困った。


 青髪の男は仲間達に、


「今日はもう終わりにしよう。また明日頼みます」


「分かった。じゃあ、俺達、二階で飲んでるから良かったら来いよ」


 戦士風の男が笑顔で答え、三人は連れだって大階段を上がって行った。


「ところで、君の名前は?」


「サナギ・キヨタキです」


「……前にどこかで会ったことがあるような気がするんだけど。あ、俺のことはシェミハザって呼んで」


「はあ」


「違う違う。ナンパしてるわけじゃないよ」


「いえ、そんなことは考えて()せん」


「もしかしてジパングの出身?」


「そうですが……」


「あ、そうか! シス・フラーヴ! サナギちゃん、シスのこと知ってるでしょ?」


「…………」


 思いもかけない名前が出てきた。半年前、サナギは理想郷(アルカディア)でシスを失った。その出来事は絶望という他なく、今も現実として受けとめることができない。


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