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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
接客業が向いてなくてしんどい
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第35話 私に接客業は向いてない

 サナギの肌は、病的と言えるほどに白かった。唇の色は、寒中水泳でもしたのかと思うくらいに真っ青で、さながら死人のようだった。


 つまりは、青い血が流れているのだ。人間とは違う、鬼の血。


 このような身体になってから、まだ半年も経っていない。だが、メイクで上手くごまかす術は覚えた。何より他人は、それほど自分のことを注視していないということが良く分かった。どうすることもできない青い舌を見せないように口さえ開かなければ、ただの病弱そうな陰キャ眼鏡で通る。


 モンスター以上の力を持ってはいるけども。決して離れることはできない鬼の金棒を持ってはいるけども。


 だが、それで接客業が上手くできるはずもなく……。


「本当に安全性は確保されてるの?」


 シャトー☆シロを訪れた利用客が、サナギに詰めよった。サナギの母親くらいの年齢で、オニヤンマのような大きい眼鏡をかけた女魔導士。サナギが掛けている眼鏡の5倍以上はある。モンスター廃絶連絡協議会(廃絶会)の代表も務めているらしい。


「え、えーと……私には分かり()せん」 


 と、サナギは返した。そんな難しいことを聞かれても、本当に分からない。


「あれだけの大事故を起こしておいて、また営業再開だなんて……そんなのおかしいでしょ?」


 そう言って、オニヤンマ魔導士はサナギに顔を近づけた。


「……」


「やれやれ」


 何も答えないサナギに、オニヤンマ魔導士はつまらなさそうに息を吐き出した。


「やはり人工ダンジョンなんてナンセンスだわ」


 そういう意見もあって当然だと、サナギはうつむいた。チクチクそのことを言うために、シャトー☆シロの会員にまでなったのだろうか。


「年々、扱っているモンスターのレベルも上がっているという話だし、市民はそれだけ危険に晒されているということ」


「で、で()()う険者数の増加やレベルの底上げに役立っているとか」


「はい?」


()う険者が増えて……」


「それはそうね。冒険者数の増加は、モンスターが巣食う人類未開の地の調査に役立つでしょう。だけど、この店は事故を起こしたのでしょう?」


「……そうですね」


「見たところ設備の復旧は不完全。しかも、運用するスタッフの中に、勉強不足の子供が混じっている」


 オニヤンマ魔導士は、魔法の杖を自分の手のひらにピシピシと叩きつけながら言った。サナギは大きめの身体を、なんとか縮こませようとがんばった。


「これはやはり、一刻も早く営業を中止させなくては。明日にでも行政機関に対し、意見書を提出します」


「いや、あの、それはこ()()す」

 

 オニヤンマ魔導士は、ふっと短く鼻で笑い、眼鏡のつるに手をやった。そして、魔法の杖をサナギに向ける。


「だいたい、そんな格好して恥ずかしくないの?」


 サナギの黒色のミニのワンピースにエプロンドレスといったミニスカメイド姿を指していると思われる。


「はあ」


「前時代的女性差別の象徴とも言えるその服装、それがトライアルダンジョンという業務形態に、どうして必要なの? バカな男どもに、少なからず性的な目で見られてるのよ? あなた、分かってるの?」


「そう言われて()、これが制服ですので……」


「あなたは雇用主に命令されたら、何でもすると言うの?」


「はあ」


「なんて嘆かわしい」


「……」


「あなたじゃ話になりません。上長の方を呼んでくださる?」


 予想はしていたので、サナギはすぐにヘッドドレスに付いたインカムを操作した。こんなふうにニナを呼び出すのは何回目だろうか。

 だが、ニナが応答することはなかった。


「あの、上長は、い()手が離せないようでして……」


「はい?」

 

 サナギの腹話術でもやっているかのような喋り方も相まって、オニヤンマ魔導士の杖を叩くテンポが、さらに速くなった。


 サナギはポケットから特別サービス券を一枚取り出す。


「これ、二階のレストランで使用でき()すので、そこで少々お()ちいただけ()すでしょうか……」


 オニヤンマ魔導士はサービス券を受け取ると、さらに手を差し出した。


「え?」


「仲間の分。あと3枚」


「……」


「私は忙しいの。早くしてちょうだいね」

 

 オニヤンマ魔導士は、サナギからもう3枚サービス券を受け取ると、早足で去って行った。


 最終手段として渡されていた特別サービス券がもうなくなってしまった。エール店長に、また叱られる。

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