表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
上司がクソビッ◯でしんどい
29/86

第28話 エールとデューク その②

 エールは小さい体で跳んだり跳ねたり、デュークのふるう剣を避けては、的確に中心を狙って反撃してくる。


 重い甲冑をつけているとはいえ、千里眼で先の動きは見えている。にもかかわらず、蛇の神速はそれをも凌駕し、もはや攻撃が避けられる未来しか見えなくなっていた。


「くっ……」


 背後に飛び下がったデュークの兜を、エールの右手の毒牙が浅く切り裂いた。


「があああっ!!」

 

 咆哮をあげ、激しく斬りまくるデュークの剣先を、エールはかわしてかわして、またかわす。


 たまりかねたデュークは、崩れた石壁から再び店内へと転がり込んだ。


「最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪……ウヒヒヒヒ」


 放心したように呟きながら、エールがその後をふらふらと追って来る。


「我が美しき命のために、奇跡を見せよ!〝炎眠(ハノヨーニ)〟!」


 待ち構えていたデュークは、そう唱えた。

 エールが胸につけた真紅の羽根が光り輝く。


「え……」


 自分の身体が、石のように動かなくなってしまったことにエールは気づいた。


「クソ腹立つ、スケコマシ野郎!! さっさと殺させろやっ!! 女をたらしこむしか能がないクソがっっっ!! チ◯ポチ◯ポチ◯ポチ◯ポチ◯ポチ◯ポ……ウヒヒヒヒヒヒ! 早よ死ねっ!!」

 

 身じろぎひとつできなくなったエールは、さらに逆上し、デュークに向かって吠え立てた。


「やめろ、蛇の化け物」


 デュークはあっという間もなく、長剣を振り下ろした。


「ぎゃあっ……!!」

 

 袈裟懸けに斬られたエールは血けむりを上げ、崩れこむように倒れる。

 砂埃が舞い、演出用に壁に設けられたろうそく立ての炎が揺れた。


 デュークが、「立て」と言うと、血みどろになったエールは自分の意思とは無関係に起き上がった。

 長剣の切っ先をエールの首すじにぴたりと当てる。


「我が〝天語(てんご)〟の力は、こんな金縛り程度のものではないのだがな。本当に腹立たしい」


 エールは、肩で息をしながら虚ろな目でデュークを見た。


「何か言い残すことはあるか」


「お……こ……」


「何だ?」


「こ……こど、子供は何人……欲しい? う、ウチは……」


 スパンッ! と、デュークは長い銀髪もろともエールの首を薙ぎ払った。


 ふわりと、エールの首が宙を舞ったかと思いきや、自由になったと言わんばかりにデュークの首すじめがけて襲いかかった。その毒牙は金属板を噛み砕く。


「し、しまった……」


 思いもよらぬ逆襲だった。

 デュークは長剣を放り落とし、エールの首に噛みつかれたままばったりと倒れた。


   ◯


 真夜中のシャトー☆シロ--開け放たれた正面玄関から、ニナとサナギが駆け込んでくる。二人は息を呑んだ。

 すぐ目の前に、白銀の騎士が倒れている。

 そして普通でない、エールと()()()()死体。


 デザートイーグルを手にしたニナは、思わず目を背けた。

 店内の華やかな内装がとてもむなしく感じられた。円形の大きなシャンデリアが照らす中、サナギがエールの頭部をそっと抱き抱える。

 そのまま、ふさわしい場所まで戻すと、付けていたエプロンドレスで覆った。


 心の動揺を押し殺して、ニナが白銀の騎士の兜を静かに蹴る。


「空……!?」

 

 何の抵抗もなく転がる兜に、ニナがびくっと身体を強張らせると--


 甲冑の各パーツが意思を持ったように宙を舞い、元通り一人の騎士を形成した。


「こんばんは。笑顔の素敵なお嬢さん」


 白銀の騎士から、神のお告げのように穏やかな言葉が発せられた。


「デューク……」


 砕かれた首元の板金から見える内側は、やはり空洞だった。

 どういうことかは分からないが、これではエールの必殺の毒も効果がないだろう。


「早速、私がプロデュースしたダンジョンに挑戦しに来てくれたのですね」


「ダンジョンに挑戦? あなたは一体、何を言ってるの?」


 ニナは鋭い口調で言い返した。


「要は、ここのダンジョン作りへのこだわりに感銘を受けましてね。私も真似てみることにしたんですよ」


「……あ、そう」


 自分達が運営していたダンジョンを褒められて悪い気はしないが……。


「それとも、鬼の金棒を見つけてくれましたか?」

 

 ニナは質問を質問で返す。


「ドラゴンバレーさん達はどうしたの?」


「ドラゴンバレー? ああ、うっかりしていました。ただいま、先客の方が挑戦中でしたね。ですが、それも間もなく終了します」


「あなたは今、どこにいるの?」


 ニナは、目の前の白銀の騎士を睨みつけた。

 デュークの声色がうれしそうな様子に変わる。


「聞きましたよ、冒険者の掟。鬼やドラゴンと一口に言っても複数の種があり、ピンキリですが、フェネクスとは私一人のことです。要は、そういうことです」


「ダンジョンに挑戦はしないし、鬼の金棒も知らない。だから、理想郷とやらに帰ってくれる?」


「ハハハハハッ! そういう訳にはいかないでしょう。自分の家から勝手にモノが盗まれた場合、あなたはどうします? 泣き寝入りをするんですか?」


 ニナは言い返そうとしたが、黙らなくてはならなくなった。傍にいたサナギの様子がおかしい。


「うううう……」


 と、肩を震わせ低い唸り声を上げている。

 ニナは静かにサナギの腕をつかんで、背後に引き寄せた。


「それから、ここを拠点にして人間界を滅ぼします」


 デュークは、とんでもない事をさらりと話す。


「は?」


「要は()()()です」 

 

 ニナは無意識のうちに一歩、後ずさりする。サナギに背を預けるような形になってしまった。


「……鬼の金棒を探す過程で、世界を滅ぼすというの?」


「いいえ。仮に、今ここで鬼の金棒を見つけたとしてもそうします」


「そんなことが許されると思ってるのっ!?」


 ニナは青ざめた。


「もったいないでしょう?」


 デュークが、にっこりと笑ったような気がした。白銀の騎士は手を広げて、


「せっかくダンジョンを作ったのです。もっとも、人間界には毛ほどの価値もなく、興味もないのですが」


「じゃあ、そのダンジョンも私たちが有効に活用してあげるから、帰って。」


 ニナは、自分でもバカなことを言っていると思った。

 白銀の騎士が「クックック」と、笑い声を漏らす。


「なるほど」


「何?」


「どうです? 私の下で働きませんか? 面接代わりに私の作ったダンジョンにチャレンジしてください。最深部にいる私のところにまで辿り着けば合格としましょう」


「誰のせいで無職になったと思ってるの……」


「ああ、そうそう。四人パーティーじゃなくても構いませんので。一人でも千人でも、ご自由にどうぞ。ハハハハハ……」


 デュークの笑い声だけを残して、白銀の騎士は姿を消してしまった。

 しばらくの間、ニナとサナギは、硬直したように動けないでいた。


 ニナは銃をガーターホルスターに戻した。ずっと握りしめていた手が痛かった。


「どうする? 面接を受けないかってさ」


「わたし」


 サナギは、ようやく声を絞り出した。


「まだ今日の分のお給料を貰ってません」


「ああ、そうね」


 ニナがおかしそうに笑った。

 サナギは久しぶりに見るニナの笑顔に、胸が締めつけられた。


「いつ暴れだすのかと思って、ひやひやしたわ」 


「すみません……でも、許せません」


 サナギは、エプロンドレスで覆われたエールに目を向けた。ニナもその方を見る。


「怖くないの?」


「……」


 サナギは口角を片方だけ上げた。何かを企んでいるような笑みになった。


「そうね。ボランティアでやってんじゃないと教えたのも私だもんね」

 

 ニナとサナギはフェネクスの待つダンジョンへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ