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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
上司がクソビッ◯でしんどい
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第17話 デュークの凶行

 ダンジョン管理室を訪れたニナに、監視カメラの録画映像が用意されていた。それをギゾーのハゲ頭越しに、ニナは呆然として見つめていた。


「ちょっと待って。何なのこれは……?」


「二十分ほど前のプラチナムダンジョン内の映像だよ」


 モニター前の席に座っているギゾーが答えた。

 サナギは息を呑んで、二人のやりとりを見守るしかなかった。


「それは聞きました。そうじゃなくて、これじゃ……モンスター狩りじゃない!」


 ニナが叫ぶ。


殺戮(さつりく)だよ」


 ギゾーは感情を押し殺した低い声で言った。


 白銀のプレートアーマーで全身を覆った騎士三人が、次々に敵モンスターを倒していく様子が記録されていた。

 レベルの違いが歴然なのもあるだろうが、一方的に、必要以上に攻撃を繰り返すさまからは明確な悪意を感じる。


「これは、デューク……様」


 ニナの手が震える。

 白銀の騎士達のはるか後方に控えて、傍観者のように全く手をださないデュークが映っていた。


「プラチナムダンジョンの最短クリア記録も大幅に更新。かなり腕が立つようだけど、誰これ?」


 ギゾーにしては、珍しく不快感をあらわにして吐き捨てた。


「今日少し接客しただけで、デュークという名前とゴールド会員のお客様だということしか知りません。顧客データを見れば、もう少し詳しい情報があると思いますが……」


「この何もしてない男がデュークっていうの? 見た目通りの胡散臭い名前だね」


「あ……、名前と言えば、エール店長はデューク様のことを〝フェネ()〟と呼んでました。逆ナンをしている時ですが……」


「フェネ男? どういうこと?」


「さあ……」


「で、そのエールがつかまらないから、ニナちゃんを呼んだんだけどさ」


 ギゾーは椅子の背もたれに身体を預けると、ハゲ頭の後ろで手を組んだ。


「ここまでやられちゃうとね、いくらリザーブのモンスターがいるとはいえ、プラチナムダンジョンの営業はしばらく無理だな。ご丁寧にトラップ類も破壊してくれてるし」


「しばらくって、どれくらいですか?」


「うーん……、一ヵ月ってとこかな」


「……」


 言葉が出ない。

 モニター内の惨状に、ニナはあきらめたように尋ねた。


「どういうつもりでこんな事をするんでしょう?」


「ある意味、そういう楽しみ方をしているだけに見えるね」


「そんな……」


「これからの事を考えると気が重いよ」


 ギゾーは大きくため息を吐いた。

 いつも無駄に元気なギゾーが、年相応に小さく見える。毎日、世話をしているモンスター達がひどい目に遭ったことが、余程こたえたのだろう。


「さしあたり、今日の対応をお願いできる?」


「やるしかないでしょう。こんな状況じゃ……」


 ニナはためらい、それからヘッドドレスの位置を直して、


「ですが、その前にデューク様に注意をしに行ってきます」


 はっきりと言った。


「えっ、本当に? 大丈夫?」


 ギゾーは小さく声を上げた。


「大丈夫とは?」


「いや、コイツら明らかに普通じゃないでしょ。ワシらが束になっても敵わないと思うよ」


「別に喧嘩をしに行くわけじゃありません。注意をするだけです。このまま黙ってるわけにもいかないでしょう」


「それにさ、トライアルダンジョンっていう商売の性質上、完全に間違った行為だとは非難できないし」


「モンスター相手にやり過ぎもクソもあるかと言い返されますかね」


「そうそう」


 ギゾーは、こくこくと頷いた。


「向こうの出方次第では、『残念ですが、当店ではお客様のレベルに合ったダンジョンをご用意することができません。お役に立てず申し訳ございません』とか、遠回しに〝二度と来るな(ビジネススマイル)〟で出禁を言い渡します」


 ニナは接客のプロとして戦うことを確認した。


 ギゾーがにやりと笑う。


「えらいねー、店としての意思表示は大切だよね。もうニナちゃんが店長やれば良いのに……、ねえ!? サナギちゃん!!」


「っ!?」

 

 突然、大声で話しを振られたサナギは、心臓が止まりそうになる。


 ニナは、苦笑してドアノブに手をかけた。


「じゃあ、行ってきます」


「まだ店内にいるかな?」


 ギゾーは監視モニターに目を戻す。


「おそらくですが……。それにあんな派手な人たちですから、見つけるのは難しくないでしょう」


 ギゾーはぴたぴたと自分の頭を叩きながら、何やら考えこんでいたが、


「……何かあったら、すぐに連絡ちょうだいね。ダンジョン管理部(うち)の若いヤツら集めて駆けつけるから」


「わかりました。じゃあ--」


 ニナが部屋から出て行こうとすると、後からサナギがついて来た。


「サナギはテッちゃんのお手伝いを頼むわ。連絡しとくから」


「いえ、私()行きます」


 眼鏡の奥の眼に、妙な迫力がある。


「これは特殊な事例だし、あまり楽しい場面にはならないわよ」


「何事()勉強だとお()()す」


「え?」


「勉強です」


 サナギは、何を考えているのか分からない顔でニナを見た。


「いや、だから、こんな対応は滅多にないし……」


「連れて行ってあげなよ。別に喧嘩しに行くわけじゃないんでしょ? そうなったらなったで、サナギちゃんの方がよっぽど役に立ちそうだし。ガハハハ……!」


 ギゾーは努めて明るい声でそう笑った。

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