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ダンジョンで接客業をしているが、職場がまさに戦場でしんどい。  作者: 森口デコ
上司がクソビッ◯でしんどい
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第15話 ダンジョンボス戦 その①

 ニナはロマネスコ達を伴い、ギゾーの誘導に従ってダンジョンの奥へと進んで行く。


『そこ左ね』


「わかりました」

 

 石造りの壁や床を照らす青みがかかった光は、次第にその濃さを増していき、神秘的で不気味な印象を与えた。そのせいか、時おり吹き抜ける風も、ひんやりと肌寒く感じられる。


「えーと……今、僕たちは猫を探してるんだよね?」


 パーティーの最後尾にいたリーフは、張り詰めた緊張感に耐えられない様子だった。


「猫じゃなくてゼウス様な。当たり前だろ、他にどんな目的があるの?」


 ロマネスコの声は、怒気を含んでいる。


--にゃあ~……。


 パーティーの行く先から、確かにゼウスの鳴き声が聞こえた。


「すぐに連れてまいります」

 

 ニナはホッとして、駆け出した。


「ゼウス様!」

 

 ロマネスコも後に続いたので、一同は一斉に走り出すことになった。


『あっ、一応言っとくけど、その先はボス--』

 

 インカムからギゾーの声が聞こえたのは、そこまでだった。

 先頭を走っていたニナが、大広間のような空間に出たと思ったら、唸りを上げて風が吹き抜けた。


「うぇいっ……!」


 ニナは咄嗟に前屈みになる。大鎌が目にも止まらぬ速さで、ニナのヘッドドレスを飛ばした。

 一陣の風だけではない。

 後に続いていた王子パーティーは風の渦に洗われるように、次々に転倒し、大鎌の尾で身体中を切り刻まれる。


 銀色の体毛を持つ、カマイタチ(三体でレベル12)があらわれた!


「み、みなさん、落ち着いて! まずは態勢を立て直して……」


 ニナが声を上げるも、不意を突かれたパーティーは大混乱に陥っていた。


「ひいいいいっ……!」


「痛あああいっ!! もう、マジでホントにやめてよー!!」


「マリネ! 早く余の後ろに隠れろ!」


「えいっ! クソ! 速すぎて全然当たらない……」


「ああ……もう、どうしよう? パトロールスタッフに救助を……いや、そうじゃなくて……あ、そうだ! ゼウス様! どこにいるの、ゼウス様!?」

 

 ニナもあたふたしながら部屋中を見渡し、近くの石柱の陰をそっと覗き込む。


「……」


 驚いてフリーズしたゼウスと目が合った。


「とりあえず、無事で良かった」

 

 ニナは、ゼウスを刺激しないように優しく抱き上げた。


 それから、先ほど飛ばされたインカム付きのヘッドドレスを拾い上げ、


「ギゾーさん? ……もしかして壊れてないよね、これ? もしもし、もしもーし!」


『はいよ、聞こえてるよ。こっちも、そんなに暇じゃないのよ』


「ギゾーさん! ボス戦になるならなるって、先に言っといてくれないと危ないじゃないですか!」


『いや、言ったけどね。まあ、ニナちゃんなら問題ないでしょ?』


「ありますよ。もし、インカムが壊れてたら、これも保険適用内ですかね?」


『これ()って何? ていうか、なんでニナちゃんが、パーティーの先頭を走ってるんだって話なんだけどね』


「えーと……まあ、それはさておき。ギゾーさん! パトロールスタッフに早く救助連絡を--」


 ニナにかまわず、ギゾーが喋る。


『何を言ってんのさ。だから、最初に言ったでしょ? カマイタチは見かけは強そうだけど、治療もしてくれるって』


「あ、そうか!」


 マリネがリーフから奪ったと思われる杖を振り回し、カマイタチを相手に奮戦している。


「もおーっ、やめてよ! こないで! チカン、ヘンタイ!!」


「あれ……? 痛くない」


 ロマネスコは、ひどくやられた筈の傷が消えており、唖然とした。


 よくよく見ると、三体のかまいたちは芸術的とも言える早技&連携プレイで、


(相手を転倒させ、大鎌の尾で斬りつけ、特効薬を塗る)


 を繰り返している。

 ニナとしては、本当に頭の下がる思いだ。


 ロマネスコが手槍を握り直す。


「なんだか分からないけど……。ニナさん、ゼウス様は無事!?」


 ニナは猫のゼウスを頭の上に掲げ、


「ここです! 元気ですよっ」


「ありがとう! カメラもお願いね!」


 途端に、ニナの顔が曇る。


「え? あー、撮影ですね……」


「さあ、立て! キワーノッ、もう決めるぞ!」

 

 ロマネスコが鼓舞すると、


「……おう!」

 

 キワーノ王子は笑顔を輝かせた。

 パーティーは息を吹き返し、カマイタチの素早い動きに目も慣れてきたようだった。

 こうなると、相手からの手厚い治療もあり、決着は時間の問題である。


 王子パーティー優勢の状況だが、ニナは素直に喜べない。


(非常にまずい……、ダンジョンが終わっちゃう。今思えば、エンカウント時が最大のチャンスだった……)


 もう考えている時間はない。


「ごめんね。少しの間だから辛抱してね」


 ニナはゼウスの頭を撫でた。


「にゃあ~」

 

 と、ゼウスが返事をする。


 ニナはゼウスを小脇に抱え直して、戦闘の中心へと飛び込んでいった。


「あぶないっ!!」


 驚いたキワーノ王子が、必死に剣を止める。

 カマイタチの大鎌が一閃二閃とニナを襲う。


「何してんの、ニナさん!?」

 

 ロマネスコがなんとか大鎌を防いだ。


「皆さん、最後のボス戦ですから頑張って! 私も迫力ある画を撮るために頑張りますから!」


 カメラをかまえて、ニナが叫んだ。


「いや、そう言われてもな……」


 間合いをはかりつつ、キワーノが答える。さらにニナに迫るカマイタチが見えた。


 しかし、ニナは、さながら命知らずの戦場カメラマンのようにカメラを向けることをやめない。

 キワーノ王子は意を決して踏み出し、剣を繰り出す。


「キャアッ!」

 

 ニナは危うく大鎌を避けるが、持っていたカメラをはじき飛ばされてしまった。

 キワーノ王子が、身をひるがえしたカマイタチの腹に決定的な一撃を突き刺す。


「ぎいいやああっ!!」


 カマイタチが絶叫をあげ、悶絶する--

 と同時に、


「よっしょいっ!」


 ニナがバランスを崩して、カメラの上にお尻から落ちた。


 ガシャン!!


と、絶望的な音がする。


 ぐったりとして動かなくなったカマイタチを、仲間の二体が抱き抱え、その場を去った。

 ボス戦に勝利し、シルバーダンジョンをクリアしたのだ。


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