第12話 ホワイトスネーク、カモン!
「ちょっとちょっと……! いったい、いつまで待たせるつもりなの!?」
ニナがVIPルームに入ってくるなり、無駄に贅沢な装備を身につけたロマネスコが食ってかかってくる。ニナは少したじろいだ。
「大変申し訳ございませんでした。シルバーダンジョンの準備が整いました」
「遅いよ」
「13時20分スタートとなりますので、早速参りましょう……!」
「それと、あれは一体、何のつもりなの?」
ロマネスコが呆れた顔で指さした。
「あれは、その……ウェルカムサービスの一つでして……」
ニナは口をもごもごさせた。
部屋の中ではずっと、独特な甲高い笛の音が響いていた。
おさげ髪のティアラが時間稼ぎのために、お得意のヘビ使いの大道芸を披露していたのである。
ティアラは、頬を膨らませ一生懸命に笛を吹いている。本来なら、笛の音に合わせてクネクネとダンスをして欲しいのだろう。
しかし、カゴに入った白蛇は、
(何だ? コイツ)
といった様子で、ジッとティアラを見つめるだけだった。
(三十分以上、ずっとこの調子だったのかな……。そういえば、去年のクリスマスパーティーの時も全く踊ってなかった。ていうか、そもそも蛇なんて気持ち悪いし)
と、ニナは思い出した。
マリネは高級ソファに腰を下ろし、自分のスマホをいじっている。丸坊主のリーフだけが、物珍しそうにヘビ使いの芸を見ていた。
「見て見て」
リーフがニナを呼ぶ。
「何かございましたか?」
「これは、ちょっと面白いよ」
リーフはルームサービスのフルーツ盛り合わせの皿から、ぶどうの実を一粒ちぎり白蛇に投げた。
白蛇は背後から迫るぶどうの実に素早く反応、キャッチして飲み込んだ。
そしてまた同じように、笛を吹くテッちゃんをジッと見つめる。
「ね、面白いでしょ?」
リーフが得意気な顔で言うと、マリネが、
「すごーい! マリネもマリネも!」
と、ぶどうの実を一粒ちぎり白蛇に向かって投げた。
ぶどうの実は少し逸れたが、白蛇は器用に首を伸ばしてキャッチすると、また同じようにテッちゃんをジッと見つめた。
「このヘビ使いの芸をする人も、昨今では激減しているらしく、とても貴重なんですよ」
ニナは解説を加えてみた。
「もういいから、そういうのは。シャトー☆シロはいったい何屋なのさ! 何回、同じことを言わせんのっ!? 俺たちはトライアルダンジョンにチャレンジするために来たの!」
「申し訳ございません……」
またもやロマネスコに言い寄られ、ニナは頭を下げた。
「よし! じゃあ、ダンジョンへ行こうぜ、ダンジョン! おい、みんな! ダンジョン行くぞ!」
ロマネスコは、仲間たちを部屋の外へと駆り立てた。
「テッちゃん、もういいのよ」
ニナは、一心不乱に笛を吹き続けるティアラの肩を叩いた。
「へ? あ、ニナさん」
ニナに気づいて、ティアラは顔を上げた。完全にトランス状態に入っていたようだ。
「助かったわ、ありがとう」
後輩の孤軍奮闘に心から感謝する。
「ブラン、今日はちょっと疲れてるみたいなんですよ」
「ブラン?」
「白蛇の名前です」
ニナとブランの目が合う。
「ああ……、無理はさせない方が良いわね」
「でも、良かったです。ブランは、よくいなくなっちゃうんですけど、今日はいてくれました」
ティアラは静かにブランのカゴに蓋をした。
「……本当に助かったわ」
ニナは、脱走を繰り返すブランのストレスと、蛇が頻繁に店内を徘徊している事実が心配になった。
「とにかく、ありがとう。明日のランチご馳走するから」
「本当ですか? やったあ!」
ティアラは笑顔で額の汗を拭った。